売買契約の目的物である不動産の価格が売主の所有権移転義務の履行不能後も騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、履行不能の際に売主がそのような特別の事情の存在することを知つていたかまたはこれを知りえた場合には、買主が右不動産を転売して利益を得るためではなくこれを自己の使用に供するために買い受けたものであるときでも、買主は、売主に対し、右不動産の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求することができる。
買主が自己の使用に供するために買い受けた不動産の価格が売主の所有権移転義務の履行不能後も騰貴を続けている場合と右義務の履行不能による損害賠償額の算定の基準時
民法416条2項
判旨
不動産売買において、売主の不法処分により履行不能となった場合、価格騰貴の特別事情を売主が予見できたときは、自己使用目的であっても騰貴した現在の価格を基準に損害額を算定できる。
問題の所在(論点)
不動産の売買において、売主の責めに帰すべき事由により履行不能となった場合、買主が転売目的ではなく自己使用目的であっても、民法416条2項の「特別の事情」による損害として、履行不能後の騰貴した価格を基準に損害額を算定できるか。
規範
債務者が目的物を不法処分したために履行不能となった後、価格が騰貴し続けているという「特別の事情」があり、かつ、債務者が履行不能時にその事情を知り、または知り得た場合には、民法416条2項により、騰貴した現在の価格(口頭弁論終結時等)を基準として損害額を算定できる。この理は、買主が転売目的ではなく自己の使用に供する目的で買い受けた場合であっても、履行不能がなければ騰貴した価格の不動産を現に保有し得たはずであるから、同様に妥当する。
重要事実
上告人は、被上告人(不動産業者)から本件土地建物を自己の住居用に買い受けたが、その後、被上告人が目的物を第三者に不法に処分したため、所有権移転義務が履行不能となった。上告人は、履行不能後も不動産価格が騰貴し続けているという特別事情があり、不動産業者である被上告人はこれを予見し得たとして、履行不能後の騰貴した価格(昭和38年12月当時)に基づき約647万円の損害賠償を請求した。これに対し原審は、上告人が転売目的でなく自己使用目的であったことを理由に、履行不能時の価格を基準とすべきとして上告人の請求を排斥した。
事件番号: 昭和44(オ)211 / 裁判年月日: 昭和47年4月20日 / 結論: 棄却
不動産の賃借人が賃貸人から当該不動産を譲り受けながらその旨の所有権移転登記を経由していない間に、第三者が右賃貸人から右不動産を譲り受けてその旨の所有権移転登記を経由したため、前の譲受人である賃借人において右不動産の所有権取得を後の譲受人である第三者に対抗することができなくなつた場合には、いつたん混同によつて消滅した右賃…
あてはめ
本件において、被上告人は不動産業者であり、目的物を不法に処分して履行不能に至らせている。不動産価格が履行不能後も騰貴を続けている場合、それが「特別の事情」に該当し、かつ履行不能時に予見可能であれば、買主は騰貴した現在の価格に基づき賠償を請求できる。原審は、買主が転売目的でないことを理由に画一的に履行不能時の価格を基準としたが、自己使用目的であっても、履行不能がなければ騰貴した不動産を保有し得た利益(財産的価値)は損害として保護されるべきである。したがって、価格騰貴の特別事情の有無および予見可能性を審理せずに請求を退けた原審には、法令の解釈適用の誤りおよび審理不尽がある。
結論
買主が自己使用目的であっても、価格騰貴の特別事情および予見可能性が認められる場合には、騰貴した現在の価格を基準に損害額を算定すべきである。
実務上の射程
履行不能による損害賠償の算定基準時に関する重要判例。416条2項の適用において、転売利益(消極的損害)の観点だけでなく、現物保有利益の喪失という観点から、自己使用目的の買主にも騰貴価格による賠償を認めた点に実務上の意義がある。答案では、債務不履行の損害賠償における基準時の論点(原則:履行不能時、例外:特別事情あり+予見可能性あり→現在時)として論述する。
事件番号: 昭和36(オ)135 / 裁判年月日: 昭和37年11月16日 / 結論: 棄却
債務の目的物の価格が履行不能後値上りをつづけて来た場合において、履行不能となつた際債務者がその事情を知りまたは知りえたときは、債務者が口頭弁論終結時の価格まで値上りする以前に目的物を他に処分したであろうと予想された場合でないかぎり、右終結時において処分するであろうと予想された場合でなくても、債権者は、右終結時の価格によ…
事件番号: 昭和46(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 棄却
土地の売買契約において、買主が代金を五年間にわたつて分割支払い、その完済後売主が所有権移転登記をなし、その支払期間中の公租公課を買主が負担する旨約された場合には、右買主の公租公課負担義務は付随義務とはいえず、売主はこの義務不履行を理由に契約を解除することができる。
事件番号: 昭和33(オ)424 / 裁判年月日: 昭和35年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売主が地価の昂騰を理由に代金の増額を要求して代金の受領を拒絶し、契約の効力自体を否定した場合には、受領遅滞に陥ったものと解される。その受領遅滞後に生じた事情変更を理由として、契約の効力の否定や供託の有効性を争うことはできない。 第1 事案の概要:売買契約の買主(被上告人)は、残代金の履行期において…
事件番号: 昭和41(オ)215 / 裁判年月日: 昭和41年6月24日 / 結論: 棄却
土地の不法占拠により土地所有者の蒙る損害額を、右土地を他に賃貸することにより通常得べかりし賃料相当額にあたる、と判断した点に違法はない。