親権者が債権者から新たに金五〇万円の貸与を受けるとともに旧債務金五〇万円を合わせた計金一〇〇万円につき、未成年者が連帯債務を負うため審判によつて選任された特別代理人が、旧債務金五〇万円についてのみ連帯債務を負う旨の契約を締結することは、判示事情関係のもとでは右審判に示された権限を逸脱した無権代理行為にあたるものというべきである。
親権者の債務につき未成年者が連帯債務を負うため審判によつて選任された特別代理人の代理行為が無権代理行為として無効であると判断された事例
民法826条
判旨
特別代理人の権限が「新旧債務合計額の連帯債務負担」を目的として与えられた場合、新債務の発生がないまま旧債務のみを負担させる行為は、権限を逸脱した無権代理行為にあたり無効である。
問題の所在(論点)
特別代理人選任の審判において「100万円の連帯債務負担」の権限を与えられた代理人が、その一部である「旧債務50万円のみの連帯債務負担」を行った行為が、代理権の範囲内といえるか(権限逸脱による無権代理の成否)。
規範
特別代理人の権限の範囲は、選任審判によって示された目的及びその権限付与の趣旨によって画定される。複数の債務を一体として負担することが予定され、一方の債務負担が他方の融資を前提とするような関係にある場合、それらをみだりに分離して一部の債務のみを負担させることは、与えられた権限を逸脱した無権代理行為(民法113条1項等)に該当する。この際、負担額が予定より減少したとしても、実質的な経済的利益の有無を慎重に判断すべきであり、当然に利益であるとは断定できない。
重要事実
未成年者である被上告人の父Dは、上告人に対し旧債務50万円を負っていた。Dが新融資50万円を求めた際、上告人は新旧債務計100万円について被上告人が連帯債務者となることを条件に融資を承諾した。家庭裁判所は、Dらが上告人から100万円を借り受けるにつき被上告人が連帯債務者となることについての特別代理人としてEを選任した。しかし、Eは上告人の申出に応じ、新融資が実行されないまま、旧債務50万円のみについての公正証書(連帯債務負担)を作成した。
あてはめ
本件において、被上告人が旧債務の連帯債務者となることを了承したのは、新融資により父Dの家業が立ち直ることを前提としていた。したがって、新旧両債務は一体をなすものであり、新融資は旧債務負担の不可欠の前提であったといえる。それゆえ、特別代理人Eが新融資の実行がないまま旧債務のみを分離して負担させた行為は、審判に示された権限を逸脱したものと評価される。また、負担額が100万円から50万円に減ったとしても、期待された新融資が得られない以上、被上告人にとって単純に利益であるとはいえない。以上より、Eに自由裁量権はなく、本件行為は無権代理行為にあたる。
結論
本件公正証書の作成行為は無権代理行為であり、被上告人に対してその効力を生じない。上告棄却。
実務上の射程
特別代理人の権限範囲を画定する際、形式的な金額の多寡だけでなく、その原因となった契約の目的や一体性を重視する。特に利益相反状況下での特別代理人の行為について、本人(未成年者)の不利益を回避するために、審判の趣旨に基づき権限を厳格に解釈する際の指針となる。
事件番号: 昭和41(オ)489 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
民法第八二六条にいう利益相反行為に該当するか否かは、親権者が子を代理してなした行為の外形によつて決すべきであり、その行為の実質的な効果を顧慮して決すべきでない。