立木の所有権の帰属をめぐつて争いがあり、当事者の一方が立木を伐採した者を相手方として立木の伐採搬出禁止の仮処分を得て執行し、ついで、山林の所有権確認、立木伐採・伐木搬出禁止等の本案訴訟を提起したが、その後右仮処分決定が取り消される等判示のような事実関係がある場合には、立木伐採に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、右所有権確認等請求事件についての本案判決が確定するまで進行しない。
民法七二四条の「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」の認定事例
民法724条
判旨
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、加害者が目的物の所有権を主張して訴訟で抗争し、かつ仮処分を取り消させるなど権利行使を著しく困難にさせた事情がある場合、権利の帰属が確定するまで進行しない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点について、目的物の所有権帰属が訴訟で争われている間、時効の進行が停止(猶予)されるか。
規範
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する(民法166条1項)。もっとも、権利の存否・帰属について訴訟で激しく争われ、加害者が権利を否定する態度を明確に示している等の特段の事情がある場合には、事実上権利行使が不可能な状態にあるものとして、その紛争が解決し、権利の帰属が確定するまでは時効は進行しないと解すべきである。
重要事実
上告人と被上告人らとの間で、昭和29年頃から山林及び立木の所有権帰属をめぐり紛争が生じた。被上告人らは仮処分を得て立木伐採を禁じたが、上告人は所有権を主張して抗争し、昭和30年には特別事情により当該仮処分を取消させた。被上告人らは本案訴訟(所有権確認等請求事件)を提起したが、上告人は自らの正当な権限を主張してこれに徹底して抗戦した。その後、昭和39年に被上告人ら勝訴の判決が確定した。
あてはめ
本件では、上告人が山林の所有権を強く主張し、被上告人らによる仮処分を取消させるなど、被上告人らが損害賠償請求権を行使することを著しく困難にする客観的状況が存在した。このような状況下では、被上告人らが損害賠償を請求することは事実上不可能であったといえる。したがって、所有権の帰属が法的に確定していない段階で時効の進行を認めることは相当ではない。よって、本件損害賠償請求権の消滅時効は、所有権の帰属を確定させた第一審判決が確定した昭和39年4月9日まで進行しないと解するのが相当である。
結論
本件損害賠償請求権の消滅時効は、所有権確認訴訟の勝訴判決が確定した時まで進行せず、時効による権利消滅は認められない。
実務上の射程
権利行使を阻害する強い「事実上の障害」がある場合に時効の起算点を遅らせる理論(時効停止に類似する構成)として活用できる。ただし、単なる権利の不知ではなく、相手方の激しい抗争や法的地位の不安定さが極めて高い場合に限定される射程の狭い法理である点に注意を要する。
事件番号: 昭和33(オ)931 / 裁判年月日: 昭和36年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が権利の範囲確認等の行政審判を受ける前であっても、損害及び加害者を知った時から進行する。実用新案権等の知的財産権侵害を理由とする場合であっても、権利関係の公的確認を待たずに時効の起算点を認定できる。 第1 事案の概要:上告人(実用新案権者)は、被上…
事件番号: 昭和46(オ)1035 / 裁判年月日: 昭和47年4月13日 / 結論: 棄却
民法四二六条にいう取消の原因を覚知するとは、債務者が債権者を害することを知つて当該法律行為をした事実を取消権者において知ることを意味し、単に取消権者が詐害の客観的事実を知るだけでは足りず、債務者に詐害の意思のあることをも知ることを要する。
事件番号: 昭和37(オ)949 / 裁判年月日: 昭和38年11月1日 / 結論: 棄却
不動産所有者が朝鮮から内地に帰還して不動産管理人に対し当該不動産の返還を請求したときに右管理人がその不動産の収益を計算して所有者に支払うとの約定のあつた場合には、右不動産収益返還請求権の消滅時効は、前示返還請求のなされた時から進行する。