国と私人との間に、私人を売主として成立した土地売買契約において、目的土地の利用方法に関する特約は、当事者にとつて極めて重要な特約であるから、右契約につき予算決算及び会計令(昭和二七年政令七六号による改正前)六八条に基づき契約書が作成された以上、かかる特約の趣旨は契約者に記載されるのが通常の事態であり、これに記載されていないときは、特段の事情のないかぎり、かかる特約は存在しないものと認めるべきである。
契約書に記載されない特約の存否に関する認定と経験則
民法91条,予算決算及び会計令(昭和47年政令76号による改正前)68条,民訴法186条
判旨
国と私人との間で作成された契約書に記載のない重要事項については、特段の事情のない限り、そのような特約は存在しなかったものと認めるのが経験則である。売買の目的たる土地の利用方法に関する事項は契約の重要事項にあたり、これが契約書に記載されていなければ、原則として法律上の義務を伴う特約の成立は認められない。
問題の所在(論点)
不動産売買において、契約の動機や目的となった事項(土地の利用方法等)が、明示的な契約条項として記載されていない場合に、黙示の特約として法律上の債務を構成するか。特に国と私人との契約において契約書の記載が果たす役割が問題となる。
規範
当事者間に詳細な契約書が作成されている場合、契約の目的たる土地の利用方法のような重要事項は、特段の事情のない限り、その契約書中に記載されるのが通常の事態である。したがって、契約書に記載がない場合には、そのような特約は存在しなかったと認めるのが経験則に合致する。ただし、国との契約において契約書への記載が効力発生の絶対的要件(要式行為)であるとまでは解されない。
重要事実
被上告人は、所有する土地及び建物が台東簡易裁判所の敷地として利用されると信じ、時価の半額以下の500万円で国に売り渡した。国側も裁判所敷地としての使用を理由に売却を強く求めていた。しかし、後に作成された複数の売買契約書には、代金や所有権移転等の詳細な特約条項が6か条にわたり定められていたものの、土地の利用目的(裁判所敷地とすること)に関する条項は一切記載されていなかった。その後、国が利用目的を変更したため、被上告人は債務不履行を理由に契約解除を主張した。
事件番号: 昭和39(オ)406 / 裁判年月日: 昭和39年9月25日 / 結論: 棄却
原判決の認定した事情のもとでは、本件土地の売買契約においては、軍用地として使用されるべきことが右売買の動機として相手方たる大阪府に表示されているものであつて、本件土地が軍のため使用されないようなときには、重要な事実について売主たる学校法人は錯誤であつたものとして、右売買は無効である。
あてはめ
本件では、本件土地が裁判所の敷地に供されることは被上告人が低廉な価格で売却する決定的な動機となっており、国側もその旨を表示して勧誘していた事実は認められる。しかし、土地の利用方法は契約当事者にとって極めて重要な事項である。国との契約において会計法等に基づき詳細な契約書が作成されている以上、かかる重要事項が記載されていないのであれば、特段の事情がない限り特約の存在は否定される。単に売却の経緯や動機として存在していただけでは、直ちに国が当該利用を継続すべき法律上の債務を負担したとはいえない。
結論
国が本件土地を裁判所敷地として使用すべき法律上の債務を負っていたとは認められず、債務不履行による契約解除は認められない。
実務上の射程
契約書の記載事項こそが合意の内容であるという「書面重視の原則」を確認した判例である。答案上は、動機の錯誤や公序良俗が問題となる場面ではなく、特定の合意が「債務」の内容になっているかという契約解釈の局面で使用する。特に、詳細な契約書が作成されている場合に、そこに含まれない口頭のやり取りを法律上の義務にまで格上げすることには慎重であるべきという論理として活用できる。
事件番号: 昭和43(オ)717 / 裁判年月日: 昭和45年3月26日 / 結論: 棄却
甲所有の丁土地と乙所有の戊土地とを交換する契約が甲乙間になされ、乙が丁土地をさらに丙に譲渡して未だその登記を経ない間に、乙に対する国税の滞納処分として戊土地が差押公売されたため、甲が履行不能を理由に右交換契約を解除した場合において、甲が、交換契約に基づき戊土地を自ら使用しており、他方右契約当時においても丁土地が乙から丙…
事件番号: 昭和27(オ)1013 / 裁判年月日: 昭和29年11月26日 / 結論: 棄却
定款に記載された現物出資およびその履行が真実有効になされたかどうかは、人証その他一般の証拠から判定し得るのであつて、必ずしも会社設立のため作成された書類のみによつて決定しなければならぬものではない。
事件番号: 昭和46(オ)198 / 裁判年月日: 昭和51年4月23日 / 結論: 棄却
病院を経営する財団法人が寄附行為の定める目的の範囲外の事業を行うために病院の敷地及び建物の全部とその備品器具等を売却した場合であつても、その代金の授受及び物件の引渡等を終わり、一年四か月を経て右事業のための寄附行為変更の認可があつたのち、買主から右売買物件の買戻方の申出がされたのに右法人においてその資金も病院経営の意思…
事件番号: 昭和40(オ)28 / 裁判年月日: 昭和43年10月31日 / 結論: その他
建物所有を目的とする土地賃貸借において、賃借権の譲渡、賃借物の転貸を許容する旨の特約があり、かつ、その賃借権の設定および右特約について登記がされているときは、賃貸人が右賃借権の消滅を第三者に対抗するためには、民法第一七七条の規定の類推適用により、その旨の登記を経由しなければならない。