病院を経営する財団法人が寄附行為の定める目的の範囲外の事業を行うために病院の敷地及び建物の全部とその備品器具等を売却した場合であつても、その代金の授受及び物件の引渡等を終わり、一年四か月を経て右事業のための寄附行為変更の認可があつたのち、買主から右売買物件の買戻方の申出がされたのに右法人においてその資金も病院経営の意思もないとしてこれを拒絶したため、買主は右物件全部を第三者に譲渡し、右第三者がこれを使用して引き続き病院を経営しているなど判示の事実関係のもとにおいて、右法人が売買の時から七年一〇か月余を経過したのちにその無効を主張し、右物件の返還又はこれに代わる損害の賠償を求めることは、信義則上許されない。
財団法人が目的の範囲外の事業を行うためにした財産の売却につきその無効を主張することが信義則に反するとされた事例
民法1条2項,民法43条
判旨
法人の目的の範囲外の行為として無効であっても、法人が自ら有効にするための手続を怠り、後に追認可能な状況で買戻しを拒絶するなどの態度を示した場合、その後の無効主張は信義則上許されない。
問題の所在(論点)
法人の目的の範囲外の行為として無効な売買契約について、長期間経過後にその無効を主張することが、信義則(民法1条2項)により制限されるか。
規範
契約が法人の目的の範囲外の事業を目的とするため無効である場合であっても、①法人が自ら有効化の手続を懈怠し、②追認可能な状態に至った後も相手方に有効であることを前提とした態度を示し、③相手方が将来無効主張がなされないと信じるにつき正当な事由が生じ、④時の経過や目的物の現状に著しい変動が生じているといった事情がある場合には、当該無効主張は信義則(民法1条2項)に反し、許されない。
重要事実
財団法人である上告人は、寄附行為の目的外の事業を行うため、病院の敷地・建物(本件不動産等)を被上告人医療団に売却した。上告人は売買に先立ち目的変更の決議をしたが、主務官庁への認可申請を放置したまま代金を受領し引渡しを完了した。その後、認可を得て追認が可能となった際、上告人は資金と経営意思の欠如を理由に買戻しを拒絶。これを受けた医療団は本件不動産等を京都市に転売した。京都市は病院として設備拡充を行い、建物の一部は朽廃・増築等で原状が著しく変動した。売買から約7年10か月後、上告人が無効を主張して提訴した。
あてはめ
上告人は自ら有効化のための認可申請を放置して本件売買を強行しており、帰責性が高い。また、追認可能となった後に買戻しを拒絶したことは、本件売買を追認したものと解し得る態度であり、医療団及び京都市において「もはや無効主張はなされない」と信じるにつき正当な事由があるといえる(②③)。さらに、提訴まで約7年10か月が経過し、その間に建物の朽廃や増築等で物理的状況にも著しい変動が生じている(④)。これらの事情に照らせば、上告人が今さら無効を主張することは、相手方の信頼を裏切るものであり、信義則上許されない。
結論
上告人の無効主張は信義則に反し認められない。したがって、売買物件の返還請求等は棄却される。
実務上の射程
権利失効の原則の典型例として、法人の目的外行為や無権代理行為等の「無効主張」を封じるための抗弁として活用できる。特に、義務者が自ら瑕疵を治癒できる地位にありながら放置し、相手方に有効と信じさせる態度をとった後の「手のひら返し」を阻止する場面で射程を有する。
事件番号: 昭和43(オ)916 / 裁判年月日: 昭和44年7月4日 / 結論: 棄却
一、労働金庫の会員外の者に対する貸付は無効である。 二、労働金庫の員外貸付が無効とされる場合においても、右貸付が判示のような事情のもとにされたものであつて、右債務を担保するために設定された抵当権が実行され、第三者がその抵当物件を競落したときは、債務者は、信義則上、右競落人に対し、競落による所有権の取得を否定することは許…
事件番号: 昭和38(オ)1108 / 裁判年月日: 昭和40年4月6日 / 結論: 棄却
土地を目的とする代物弁済予約に基づく完結権を行使しうる時から約一五年後に完結の意思表示がなされた場合でも、右予約による所有権移転請求権保全の仮登記が経由されているときは、他に特段の事情のないかぎり、いわゆる権利失効の原則により権利が失われることなく、右完結権の行使は有効である。
事件番号: 昭和36(オ)1162 / 裁判年月日: 昭和38年1月18日 / 結論: 破棄差戻
譲渡担保契約において、期限に債務の弁済がないときは担保物件を債務の代物弁済に供する旨の約定を含む場合、被担保債権額に比し担保物件の価額が著しく高額であつて、債務者の経済的困窮に乗じて右の約定をなしたものとして右約定部分を公序良俗に反し無効と解すべきときでも、必ずしも譲渡担保契約全部が無効となるとは限らない。
事件番号: 昭和36(オ)513 / 裁判年月日: 昭和36年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲受人等の第三者が民法177条の「第三者」に該当しないとされるためには、単に権利の存在を知っているだけでは足りず、相手方の登記の欠如を主張することが信義則(民法1条2項)に反すると認められるほどの強い「害意」を有する背信的悪意者であることを要する。 第1 事案の概要:上告人(被告)は本…