土地を目的とする代物弁済予約に基づく完結権を行使しうる時から約一五年後に完結の意思表示がなされた場合でも、右予約による所有権移転請求権保全の仮登記が経由されているときは、他に特段の事情のないかぎり、いわゆる権利失効の原則により権利が失われることなく、右完結権の行使は有効である。
権利失効の原則の適用が否定された事例。
民法1条2項
判旨
代物弁済予約完結権が長期間行使されなかった場合であっても、目的不動産に所有権移転請求権保全の仮登記がなされているときは、特段の事情がない限り、権利がもはや行使されないと信頼すべき正当な理由があるとはいえず、権利失効の原則は適用されない。
問題の所在(論点)
代物弁済予約完結権が長期間放置されていた場合、当該権利が信義則上の権利失効の原則により消滅したとみなされるか。特に、仮登記が存在する場合の「信頼の正当理由」の成否が問題となる。
規範
信義則(民法1条2項)から派生する権利失効の原則が適用されるためには、単に権利が長期間行使されなかったという事実のみでは足りない。債務者や第三者において、その権利がもはや行使されないものと信頼すべき正当の理由があることが必要である。
重要事実
Dは昭和16年、E組合から5万円を借り入れ、本件土地に代物弁済予約を締結して仮登記を経由した。弁済期(昭和17年)経過後も債務は不履行であったが、予約完結権は行使されないまま、土地所有権はDからF、Gを経て、昭和32年に上告人(A社)へと転々譲渡された。同年、被上告人がEから貸金債権及び予約完結権を譲り受け、仮登記の移転登記を経た上で予約完結権を行使し、本登記を完了した。上告人は、予約成立から約16年が経過しており権利は失効していると主張した。
事件番号: 昭和39(オ)1368 / 裁判年月日: 昭和40年12月3日 / 結論: 棄却
代物弁済の予約をした債権者が、その妻名義で所有権移転請求権保全の仮登記をしたときは、その仮登記は順位保全の効力を有しない。
あてはめ
本件における代物弁済予約完結権の行使は、予約から約16年を経過しており、通常予想される期間を遥かに経過している。しかし、本件土地には当該予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記が依然として登記簿上に存在し、公示されていた。そうであれば、土地の所有権を取得した上告人としては、当該権利がいずれ行使されるかもしれないことを予想すべきであった。したがって、他に特段の事情のない限り、上告人において権利がもはや行使されないと信頼すべき正当の理由があるとはいえない。
結論
本件予約完結権の行使は権利失効の原則に反せず、有効である。上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
仮登記という公示手段が存在する以上、時効にかからない限り、単なる期間の経過のみをもって権利消滅を期待することは困難である。答案上は、信義則の類型として権利失効を論じる際、「権利不行使の期間」だけでなく「相手方の正当な信頼」を欠く事情として仮登記の存否を検討する素材となる。
事件番号: 昭和35(オ)1299 / 裁判年月日: 昭和38年10月8日 / 結論: その他
建物所有権移転請求権保全の仮登記権利は、本登記をなすに必要な要件を具備した場合でも、本登記を経由しないかぎり、登記の欠缺を主張しうる第三者に対し該建物の明渡を求めることは許されない。
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…
事件番号: 昭和38(オ)710 / 裁判年月日: 昭和41年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産譲渡の合意の成立が認められない以上、その合意に至る経緯としての周辺事実(賃借権の存在等)について個別に判断を示さなくとも、理由不備や判断遺脱の違法は存しない。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、訴外Fとの間で、Fが国から本件土地の払下げを受けることを停止条件として、本件土地を上告人に譲渡す…