一、労働金庫の会員外の者に対する貸付は無効である。 二、労働金庫の員外貸付が無効とされる場合においても、右貸付が判示のような事情のもとにされたものであつて、右債務を担保するために設定された抵当権が実行され、第三者がその抵当物件を競落したときは、債務者は、信義則上、右競落人に対し、競落による所有権の取得を否定することは許されない。
一、労働金庫の会員外の者に対する貸付の効力 二、員外貸付が無効とされる場合に債務者において右債務を担保するために設定された抵当権の実行による所有権の取得を否定することが許されないとされた事例
民法1条,民法43条,民法387条,労働金庫法58条
判旨
労働金庫による目的外の員外貸付は無効であるが、虚無の組合を捏造して貸付を受けた者が、自らの不当利得返還義務を棚に上げて貸付の無効や抵当権の無効を主張することは、信義則上許されない。
問題の所在(論点)
労働金庫による員外貸付の私法上の効力(論点1)、および自ら虚偽の外観を工作して貸付を受けた者が当該貸付の無効を主張することが、信義則(民法1条2項)により制限されるか(論点2)。
規範
1. 労働金庫法58条、99条の趣旨に鑑み、会員でない者に対する目的外の員外貸付は、私法上無効である。 2. もっとも、契約が無効であっても、その結果生じた不当利得返還義務を負う者が、自らの不当な行為(虚偽事実の作出等)を前提として無効を主張し、担保権の実行手続等の効力を否定することは、民法1条2項の信義則に反し許されない。
重要事実
上告人は、実体のない虚無の従業員組合を自ら結成したかのように装い、その組合名義で労働金庫から貸付を受けた。上告人はこの資金を自己の事業に利用していたが、後に当該貸付が労働金庫法に違反する員外貸付であり無効であると主張。貸付債権を担保するために設定された抵当権、およびその実行手続(競売)による所有権移転の無効を訴え、第三者への対抗を試みた。
事件番号: 昭和42(オ)524 / 裁判年月日: 昭和43年11月15日 / 結論: 棄却
部落民全員が、その総有に属する土地について、入会権者として登記の必要に迫られ、単に登記の便宜から、右部落民の一部の者のために売買による所有権移転登記を経由した場合には、民法第九四条第二項の適用または類推適用がない。
あてはめ
論点1につき、労働金庫の事業範囲外の行為は無効であるため、本件貸付も原則として無効である。しかし、論点2につき、上告人は自ら虚偽の組合を仕立てて金員を領得しており、仮に貸付が無効でも、同額の不当利得返還義務を負う。本件抵当権は経済的にこの不当利得返還債権を担保する意義を有している。さらに、既に競売手続が終了し第三者が権利を取得している状況において、自らの非行を端緒としてその効力を否定することは、善意の第三者の権利を不当に害するものであり、信義則に著しく反すると評価される。
結論
本件貸付自体は無効であるが、上告人が無効を理由に抵当権の実行手続の無効を主張することは信義則上許されず、上告人の請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
強行法規違反等により契約が法律上無効となる場合であっても、主張者の態様(クリーンハンズの原則に近い考慮)や相手方・第三者の信頼保護の必要性が高い場合には、信義則(権利濫用・禁反言)によって無効主張そのものが封じられるという法理を示す射程を持つ。答案では、形式的な無効を認めた上で、結論の妥当性を図るための修正手段として活用すべき判例である。
事件番号: 昭和40(オ)554 / 裁判年月日: 昭和42年9月14日 / 結論: 棄却
甲に対して建物明渡を命じた判決に基づき、当該訴訟の原告乙の単独申請によつてされた右建物の所有権移転登記であつても、右登記が実体的権利関係に合致しているのみならず、甲が右登記義務履行について有する同時履行の抗弁権も消滅しており、かつ、登記当時他に右建物の帰属について利害関係を有する第三者が存在していない場合には、甲は、右…
事件番号: 昭和33(オ)251 / 裁判年月日: 昭和36年1月17日 / 結論: 棄却
病身の夫が家族との不和と療養の関係からさして遠方でない土地に別居中、妻が無断で夫の印章を偽造し、夫の代理名義で夫所有の土地家屋を代金三一〇万円で売却した場合、交渉の行われた場所が当該の家屋であり、家族の収入は妻名義でなす貸間収入で賄われており、成人した子供達が交渉の際同席する等、一応妻に代理権があると信じさせるような事…
事件番号: 昭和41(オ)396 / 裁判年月日: 昭和46年4月20日 / 結論: 棄却
一、司法書士が、即決和解申立書作成の嘱託を受け、その行為に関連して、即決和解申立の対象となつた法律関係について、和解契約締結の委任を受け、相手方との間に和解契約を締結することは、司法書士法九条に違反して司法書士がその業務の範囲を越えて他人問の事件に関与したことにあたる。 二、司法書士が司法書士法九条に違反して、和解契約…
事件番号: 昭和46(オ)803 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙と相通じ、仮装の所有権移転請求権保全の仮登記手続をする意思で、乙の提示した所有権移転登記手続に必要な書類に、これを仮登記手続に必要な書類と誤解して署名押印したところ、乙がほしいままに右書類を用いて所有権移転登記手続をしたときは、甲は、乙の所有権取得の無効をもつて善意・無過失の第三者に対抗することができない。