不起訴となった甲事件による逮捕、勾留期間を、実質上無罪の裁判を受けた乙事件による抑留又は拘禁に当たると認めることはできないとされた事例(補足意見がある)
憲法40条,刑補法1条1項
判旨
不起訴となった別罪の逮捕・勾留期間を、無罪となった本罪の刑事補償の対象とするには、実質的に本罪の捜査に利用されたか、またはそれと同視すべき特別の事情があることを要する。両事件に関連性があるだけでは足りず、拘禁期間中に本罪の核心に迫る重要な裏付捜査が行われている必要がある。
問題の所在(論点)
刑事補償法1条1項にいう「抑留又は拘禁」に、無罪となった事件(本罪)そのものではなく、不起訴となった別件(別罪)による逮捕・勾留期間を含めることができるか。また、そのための判断基準(特別の事情の有無)はいかなるものか。
規範
不起訴となった事実(別罪)による逮捕・勾留であっても、(1)これを利用して、後に起訴されたが無罪となった事実(本罪)の取調べがなされたと認められる場合、または(2)これと同視するのが相当な特別の事情がある場合には、実質的にみて各別に逮捕・勾留して取り調べた場合と区別すべき理由がない。したがって、その限度において、当該期間も刑事補償(憲法40条、刑事補償法1条1項)の対象となり得る。具体的には、単に捜査上の意図や関連性があるだけでなく、当該期間中に本罪の具体的事実関係についての核心に迫る捜査(被疑者・共犯者・重要証拠等の取調べ)が行われていることを要する。
重要事実
申立人は、警視総監公舎爆破未遂事件(本罪)の容疑者として内偵されていたところ、同事件の2か月前に発生した自動車窃盗事件(別罪)の容疑で逮捕・勾留された。警察官は、別罪の捜査を糸口に本罪を解明する意図を持っていた。しかし、申立人の別罪による拘禁期間中には、窃盗事件に関する取調べのみが行われ、本罪に関する取調べや、本罪の核心に迫る共犯者の取調べ等の重要な裏付捜査は行われなかった。その後、申立人は別罪については処分保留で釈放されたが、別途本罪で起訴され、最終的に無罪判決を受けた。申立人は、別罪による拘禁期間についても刑事補償を請求した。
事件番号: 平成1(し)123 / 裁判年月日: 平成3年3月29日 / 結論: 棄却
少年法二三条二項による不処分決定は、非行事実が認められないことを理由とするものであっても、刑事補償法一条一項にいう「無罪の裁判」には当たらない。
あてはめ
本件では、窃盗事件と爆破未遂事件との間に捜査上の関連性が認められ、捜査官に別罪の拘禁を本罪の捜査に役立てようとする意図があったことは否定できない。しかし、申立人の拘禁期間中に、本罪の事実について申立人を取り調べたり、拘禁を利用して共犯者を取り調べるなどの重要な裏付捜査が行われた形跡は見当たらない。このような状況下では、別罪の拘禁が本罪の捜査に実質的に利用されたとはいえず、別罪による拘禁を本罪の拘禁と同視すべき「特別の事情」があるとは認められない。したがって、当該期間を本罪の刑事補償の対象とすることはできない。
結論
別罪による逮捕・勾留期間を、本罪の刑事補償の対象とすることは認められないため、抗告を棄却すべきである。
実務上の射程
刑事補償の対象範囲を「実質的利用関係」に基づき拡大する基準を示したものである。答案上は、別件逮捕・勾留が先行する場合の刑事補償の成否を論じる際、単なる事件の主観的関連性だけでなく、客観的な捜査実態(取調べの有無や核心的証拠の収集)を具体的に検討するための規範として活用する。
事件番号: 昭和30(し)15 / 裁判年月日: 昭和31年12月24日 / 結論: 破棄差戻
憲法第四〇条にいう「抑留又は拘禁」中には、たとえ不起訴になつた事実に基く抑留または拘禁であつても、そのうちに実質上は、無罪となつた事実の取調のための抑留または拘禁であると認められるものがあるときは、その部分の抑留および拘禁もまたこれを包含するものと解するを相当とし、刑事補償法第一条第一項の「未決の抑留又は拘禁」とは右憲…
事件番号: 平成3(し)62 / 裁判年月日: 平成4年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】非行事実が認められないことを理由に保護処分に付さない旨の決定を受けた者に対し、身体の自由の拘束による補償を行わなくても、憲法40条、29条3項、14条に違反しない。 第1 事案の概要:少年法に基づき身体の拘束(鑑別所収容等)を受けた少年に対し、家庭裁判所が非行事実が認められないことを理由として、同…
事件番号: 昭和55(し)129 / 裁判年月日: 昭和55年12月9日 / 結論: 棄却
本刑に算入された未決勾留日数については、その刑が執行猶予付の場合においても、未決勾留としては刑事補償の対象とはならない。
事件番号: 平成6(し)127 / 裁判年月日: 平成6年12月19日 / 結論: その他
再審判決の一部有罪部分についての執行猶予付き本刑に裁定算入及び法定通算された未決勾留は、再審判決確定当時既に執行猶予期間が満了し本刑の執行の可能性がない場合には、刑事補償の対象となる。