憲法第四〇条にいう「抑留又は拘禁」中には、たとえ不起訴になつた事実に基く抑留または拘禁であつても、そのうちに実質上は、無罪となつた事実の取調のための抑留または拘禁であると認められるものがあるときは、その部分の抑留および拘禁もまたこれを包含するものと解するを相当とし、刑事補償法第一条第一項の「未決の抑留又は拘禁」とは右憲法第四〇条の「抑留又は拘禁」と同一意義のものと解すべきである。
憲法第四〇条の「抑留又は拘禁」および刑事補償法第一条第一項の「未決の抑留又は拘禁」の意義
憲法40条,刑事補償法1条1項
判旨
憲法40条および刑事補償法1条の「抑留又は拘禁」には、不起訴となった被疑事実に基く拘束であっても、実質上は無罪となった公訴事実についての拘束と認められるものが含まれる。
問題の所在(論点)
令状記載の被疑事実にのみ基づいて形式的に判断すべきか、それとも実質的にみて無罪となった事実のための拘束といえる場合には補償の対象となるか。憲法40条および刑事補償法1条の「抑留又は拘禁」の範囲が問題となる。
規範
憲法40条および刑事補償法1条にいう「抑留又は拘禁」とは、無罪となった公訴事実に基くものはもとより、不起訴となった事実に基くものであっても、その取調べが無罪となった事実についての逮捕勾留を利用してなされたと認められるなど、実質上は無罪となった事実についての拘束であると認められる部分を包含する。
重要事実
抗告人は、ある被疑事実(A事実)により逮捕・勾留されていたが、その拘束期間中に令状記載のない他の被疑事実(B事実)について取調べを受けた。その後、A事実は不起訴となったが、B事実については公訴が提起され、審理の結果、無罪の裁判を受けた。抗告人は、A事実に基づく拘束期間についても刑事補償を請求したが、原審は刑事補償法1条の適用を令状記載の事実に限定し、請求を排斥したため、憲法40条違反を理由に特別抗告がなされた。
事件番号: 昭和58(し)124 / 裁判年月日: 昭和61年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不起訴となった別罪の逮捕・勾留期間を、無罪となった本罪の刑事補償の対象とするには、実質的に本罪の捜査に利用されたか、またはそれと同視すべき特別の事情があることを要する。両事件に関連性があるだけでは足りず、拘禁期間中に本罪の核心に迫る重要な裏付捜査が行われている必要がある。 第1 事案の概要:申立人…
あてはめ
ある事実での逮捕・勾留を利用して他の事実の取調べが行われ、前者が不起訴、後者が無罪となった場合、これを実質的に考察すれば、各事実につき個別に逮捕・勾留して取り調べた場合と区別すべき理由はない。本件においても、A事実による拘束が実質的にB事実(無罪事実)の取調べに利用されていたのであれば、その期間は実質的にB事実についての拘束にあたると評価される。したがって、形式的にA事実に係る令状に基づいているからといって、直ちに補償対象から除外することは、実質的な人権保障を旨とする憲法40条の趣旨に反する。
結論
刑事補償法1条を限定的に解釈して請求を排斥した原決定には憲法の解釈誤りがある。原決定を取り消し、拘束の実質を判断させるため、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
別件逮捕・勾留がなされた場合や、余罪取調べが主目的化していた場合の刑事補償の範囲を画定する基準となる。答案上は、令状の記載という形式にとらわれず、「実質的に無罪事実のための拘束といえるか」という観点から、取調べの実態や逮捕勾留の利用関係を具体的事実に基づき論じる際に用いる。
事件番号: 昭和34(し)44 / 裁判年月日: 昭和34年10月29日 / 結論: 棄却
併合罪中一部無罪の場合、本刑に算入された未決勾留日数については未決勾留としては刑事補償の請求はできない。
事件番号: 平成3(し)62 / 裁判年月日: 平成4年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】非行事実が認められないことを理由に保護処分に付さない旨の決定を受けた者に対し、身体の自由の拘束による補償を行わなくても、憲法40条、29条3項、14条に違反しない。 第1 事案の概要:少年法に基づき身体の拘束(鑑別所収容等)を受けた少年に対し、家庭裁判所が非行事実が認められないことを理由として、同…
事件番号: 昭和55(し)129 / 裁判年月日: 昭和55年12月9日 / 結論: 棄却
本刑に算入された未決勾留日数については、その刑が執行猶予付の場合においても、未決勾留としては刑事補償の対象とはならない。
事件番号: 平成1(し)123 / 裁判年月日: 平成3年3月29日 / 結論: 棄却
少年法二三条二項による不処分決定は、非行事実が認められないことを理由とするものであっても、刑事補償法一条一項にいう「無罪の裁判」には当たらない。