強盗殺人事件について一、二審判決に事実誤認がないとの職権判断が付加された事例
刑法240条
判旨
被告人の自白の信用性は、体験者でなければ困難な供述の存否や客観的事実との整合性から判断すべきであり、アリバイ主張の不自然さと併せて総合的に検討される。
問題の所在(論点)
直接証拠が乏しい事案において、被告人の自白の信用性(刑事訴訟法319条1項)をいかに評価し、有罪認定に必要な証明力を認めるべきか。
規範
自白の信用性を判断するにあたっては、①自白内容が「実際体験した者でなければ困難な供述」を含んでいるか(暴露の信憑性)、②客観的な裏付け証拠との適合性、③自白に至る経緯や変遷の合理性、④供述の具体性・詳細性を総合的に考慮する。また、対立するアリバイ主張の合理性や証拠との矛盾も、相対的に自白の信用性を評価する要素となり得る。
重要事実
被告人は強盗殺人事件について当初否認していたが、別件勾留中に自白に転じ、第1審第3回公判まで維持した。しかし第4回公判で再び否認し、被害者宅を訪問したが犯行はしていないとするアリバイを主張した。現場指紋や血痕、凶器等の直接的な客観証拠は欠けており、自白の信用性とアリバイの存否が争点となった。
あてはめ
まず自白について、内容に「実際体験した者でなければ困難な供述」が随所に含まれ、一部に客観的裏付けもあることから信用性が高いと評価できる。現場指紋の不在や転倒位置の不明等の未解明点は、自白の信用性を失わせるほどではない。一方、被告人のアリバイ主張は、公判途中で突如提出された経緯に客観的な納得感がない。また、主張する時間帯に被害者宅を訪問し退去したとすれば、知人と会ったとする他のアリバイ部分と矛盾が生じる。このようにアリバイが不自然かつ不合理であることは、相対的に自白の信用性を支える要素となる。
結論
被告人の自白は、暴露の信憑性およびアリバイ主張の破綻に照らして高い信用性が認められ、他の証拠と総合して有罪を認定した判断に誤りはない。
実務上の射程
自白の信用性判断における「秘密の暴露」の重要性を改めて示した事例。客観証拠との矛盾が一部あっても、体験者ならではの具体性があれば信用性を肯定しうること、およびアリバイ主張の不合理性が間接的に自白の信用性を補強する論理は、事実認定の答案構成において極めて有用である。
事件番号: 平成26(あ)589 / 裁判年月日: 平成29年7月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】間接事実を総合することにより、犯人が被告人であることについて合理的な疑いを差し挟む余地がない程度の証明がなされていると判断し、強盗殺人罪の成立を肯定した。 第1 事案の概要:被告人が2名の被害者から債務の弁済を請求されていた際、両名を殺害して免れようと考え、睡眠薬等で意識もうろう状態に陥らせた上で…
事件番号: 昭和26(れ)2518 / 裁判年月日: 昭和30年4月6日 / 結論: 棄却
一 検察官が、まず甲事件について起訴勾留の手続をとつた後、右勾留中の被告人を乙事件の被疑者として取り調べたとしても、検察官においてはじめから乙事件の取調に利用する目的または意図をもつて、ことさらに甲事件を起訴し、かつ不当に勾留を請求したものと認められない場合には、右取調をもつて直ちに自白を強制し、不利益な供述を強要した…
事件番号: 昭和60(あ)826 / 裁判年月日: 平成元年7月4日 / 結論: 棄却
午後一一時過ぎに任意同行の上翌日午後九時二五分ころまで続けられた被疑者に対する取調べは、特段の事情のない限り、容易に是認できないが、取調べが本人の積極的な承諾を得て参考人からの事情聴取として開始されていること、一応の自白があつた後も取調べが続けられたのは重大事犯の枢要部分に関する供述に虚偽が含まれていると判断されたため…