記録にあらわれた証拠関係を検討すれば、犯行の外形的事実と被告人との結びつきについて、合理的な疑いを容れるに足りる幾多の問題点が存し(判文参照)、原審が、被告人の自白に信用性、真実性があるものと認め、これに基づいて犯行を被告人の所為であるとした判断が支持し難いときは、刑訴法四一一条一号、三号により、原判決は破棄を免れない。
被告人の自白に信用性真実性があると認めた原審の判断が支持し難いとして破棄された事例
刑法240条後段,刑訴法317条,刑訴法411条1号,刑訴法411条3号,刑訴法413条本文
判旨
死刑という極めて重大な刑を科す事案において、自白の信用性を支える間接事実に合理的な疑いが残る場合、有罪判決を維持することは著しく正義に反し、破棄を免れない。事実認定の証明は、高度に確実で合理的な疑いを容れない程度に達している必要がある。
問題の所在(論点)
直接証拠が自白のみである事案において、自白の信用性およびその補強となる間接事実の認定が、刑事裁判に求められる「合理的な疑いを超えた証明」に達しているか。
規範
有罪認定を行うための証明は、高度に確実で、合理的な疑いを容れない程度に達していなければならない。特に自白の信用性を判断するにあたっては、供述の変転、客観的事実との整合性、捜査官による誘導の有無、および自白を補強する間接事実の一つ一つが確実であるかを厳格に吟味すべきである。これらが確実でない限り、これらを総合しても有罪の資料となし得ない。
重要事実
被告人は昭和29年に家族6名を殺害した強盗殺人の罪で起訴された。被告人は捜査段階で自白したが、起訴後は一貫して否認。第一審・第二審は、詳細な自白調書や「犯行現場付近での目撃証言」「被害品と思われる上衣の所持」「現場遺留品(藁縄)の出所に関する自白との一致」等の間接事実に基づき死刑を言い渡した。しかし、これら間接事実の多くは、証言の変遷や客観的資料との矛盾、捜査官による誘導の疑いなど、証拠上の難点が含まれていた。
あてはめ
原判決が挙げた6つの重要事実は、いずれも証拠上の疑義がある。第一に、目撃証言は人違いの可能性を否定できず、目撃日時の裏付けも欠く。第二に、被害品とされる上衣は現存せず、家族の証言でも被害当時の存在が不明確である。第三に、現場の藁縄や足跡(月星印の地下足袋)も、被告人と結びつける客観的証拠が不十分である。これら各事実が独立して確実でない以上、これらを総合して自白の真実性を補強することは論理的に認められない。したがって、自白の信用性を認めた判断には重大な事実誤認の疑いがある。
結論
原判決には審理不尽、証拠の価値判断の誤りがあり、重大な事実誤認をした疑いが顕著である。これを放置することは著しく正義に反するため、原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
「疑わしきは被告人の利益に」の原則を、死刑相当の重大事案において具体化した判例。間接事実を総合して有罪を導く際でも、個々の間接事実の確実性が厳格に求められることを示しており、事実認定を争う答案における論理展開の指針となる。
事件番号: 昭和29(あ)1442 / 裁判年月日: 昭和32年10月15日 / 結論: 破棄差戻
判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認の疑があつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認めるときは、刑訴第四一一条第三号により原判決を破棄することができる。
事件番号: 昭和62(あ)246 / 裁判年月日: 平成4年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の量刑判断においては、犯行の罪質、動機、計画性、態様、殺害方法の残忍性、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響等を総合的に考慮すべきであり、情状を酌量しても罪責が重大な場合には死刑が是認される。 第1 事案の概要:被告人は、借金返済のため、同僚の妻Bから健康保険証を奪って金員を詐取しようと計…
事件番号: 昭和27(あ)96 / 裁判年月日: 昭和28年11月27日 / 結論: 破棄差戻
刑訴第四一一条第三号は、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認あることを疑うに足る顕著な事由があつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときも原判決を破棄することを許した趣旨である。