午後一一時過ぎに任意同行の上翌日午後九時二五分ころまで続けられた被疑者に対する取調べは、特段の事情のない限り、容易に是認できないが、取調べが本人の積極的な承諾を得て参考人からの事情聴取として開始されていること、一応の自白があつた後も取調べが続けられたのは重大事犯の枢要部分に関する供述に虚偽が含まれていると判断されたためであること、その間本人が帰宅や休息の申出をした形跡はないことなどの特殊な事情のある本件においては、任意捜査として許容される限度を逸脱したものとまではいえない。
被疑者に対する長時間の取調べが任意捜査として許容される限度を逸脱したものとまではいえないとされた事例(反対意見がある)
刑訴法197条1項,刑訴法198条1項
判旨
任意取調べにおける長時間の徹夜の取調べは、特段の事情がない限り是認できないが、被疑者が自発的に協力を申し出、客観的事実との矛盾を解消する過程で生じたものである等の特殊な事情があれば、社会通念上の許容限度を逸脱せず、自白の任意性も否定されない。
問題の所在(論点)
任意捜査としての取調べの限界(刑訴法198条1項)および、長時間・徹夜の取調べによって得られた自白の任意性と証拠能力。
規範
任意捜査としての取調べは、事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容される。徹夜や長時間の取調べは、心身に多大な苦痛・疲労を与えるため、特段の事情がない限り容易に是認できず、自白の任意性に疑いを生じさせる場合には違法として証拠能力を否定すべきである。
重要事実
警察は殺人事件の参考人として被告人を任意同行し、午後11時半過ぎから翌日午後9時25分の逮捕まで約22時間にわたり徹夜で取調べた。被告人は冒頭で捜査協力を約束し、翌朝に自白を始めたが、内容が客観的事実と矛盾したため、警察は真相解明のため取調べを続行した。被告人は取調べの拒否や休息の申出をせず、風邪や眠気で意識朦朧とした状態にもなかった。警察に不当な自白強要や令状主義潜脱の意図は認められなかった。
事件番号: 昭和26(れ)2518 / 裁判年月日: 昭和30年4月6日 / 結論: 棄却
一 検察官が、まず甲事件について起訴勾留の手続をとつた後、右勾留中の被告人を乙事件の被疑者として取り調べたとしても、検察官においてはじめから乙事件の取調に利用する目的または意図をもつて、ことさらに甲事件を起訴し、かつ不当に勾留を請求したものと認められない場合には、右取調をもつて直ちに自白を強制し、不利益な供述を強要した…
あてはめ
本件取調べは、当初被告人が自ら協力を申し出ていたこと、自白開始後の延長も強要目的ではなく、被告人の供述が客観的状況と矛盾し虚偽を含んでいたため真相解明の必要があったこと等の特殊な事情がある。また、被告人に拒絶の態度がなく、意識も清明であった。これらを総合すると、事案の重大性に鑑み、社会通念上の許容限度を逸脱したとまではいえず、自白の任意性に疑いを生じさせるものでもないと評価される。
結論
本件取調べは適法であり、そこで得られた上申書およびその後の供述調書には任意性があるため、証拠能力が認められる。
実務上の射程
任意取調べの限界事例を示す判例である。答案では、原則として長時間・徹夜の取調べを違法方向の要素としつつ、本件のような「被疑者の積極的協力」「供述の客観的矛盾の解消」といった特殊事情を対抗要素として論じる際に参照する。
事件番号: 昭和28(あ)5265 / 裁判年月日: 昭和31年12月11日 / 結論: 棄却
被疑者を午前三時頃に出頭せしめる必要もないのに、警察署に任意出頭せしめた場合でも、その日の午後六時三〇分頃適法な手続によつて逮捕され、次いで適法に勾留された後において被疑者が司法警察員に対してなした供述(自白)の任意性が認められ、また被告人(被疑者)および弁護人共にその供述調書を証拠とすることに同意している等特段の事情…