被疑者を午前三時頃に出頭せしめる必要もないのに、警察署に任意出頭せしめた場合でも、その日の午後六時三〇分頃適法な手続によつて逮捕され、次いで適法に勾留された後において被疑者が司法警察員に対してなした供述(自白)の任意性が認められ、また被告人(被疑者)および弁護人共にその供述調書を証拠とすることに同意している等特段の事情ある場合に、右供述調書の証拠能力を認めることは相当である。
被疑者を午前三時頃警察署に任意出頭せしめた処置と、被疑者の司法警察員に対する供述調書(自白)の証拠能力
刑訴法198条,刑訴法199条,刑訴法201条,刑訴法207条,刑訴法210条,刑訴法322条,刑訴法326条
判旨
早暁の任意出頭要求という不当な捜査手続があったとしても、その後の逮捕・勾留が適法であり、自白の任意性を疑わせる形跡がなく証拠同意もなされている等の特段の事情がある場合には、当該自白の証拠能力は否定されない。
問題の所在(論点)
早暁の任意出頭要求という不当な捜査手続を経て得られた自白について、刑事訴訟法319条1項の任意性、あるいは違法収集証拠排除法則の観点から証拠能力が認められるか。
規範
取調べに至る手続に不当な点があり、自白が強要によるのではないかとの疑念を抱かせる場合であっても、直ちに証拠能力が否定されるわけではない。供述の任意性を疑わせる具体的形跡の有無、その後の逮捕・勾留手続の適法性、および公判における当事者の態度(証拠同意の有無等)を総合的に考慮し、特段の事情が認められる場合には証拠能力が認められる。
重要事実
被告人は昭和26年11月10日午前3時頃、羽島地区警察署から出頭を求められ任意出頭した。警察官がこのような早暁に出頭を求めた点について、記録上その必要性は認められず、甚だしく非常識で妥当を欠く不当な処置であった。しかし、被告人は同日午後6時30分に「適法な手続によって逮捕」され、次いで「適法に勾留」された。その後作成された第1回ないし第6回供述調書について、被告人および弁護人は第一審で証拠とすることに「同意」し、不当な処置を理由に証拠能力を争うことはなかった。
あてはめ
本件における午前3時の出頭要求は非難されるべき不当な処置であり、自白の任意性に疑念を抱かせる余地がある。しかし、被告人はその後適法に逮捕・勾留されており、身分拘束手続の適法性が確保されている。また、供述調書の内容を検討しても強要の形跡はなく、任意性を疑わせる事情は存在しない。さらに、第一審公判において被告人側が証拠同意を与え、捜査の不当性を理由に証拠能力を争わなかったという事実も重要である。これらの事情を総合すれば、出頭要求の不当性が直ちに自白の証拠能力を喪失させるものとはいえない。
結論
不当な先行手続があったとしても、後の逮捕・勾留が適法で自白の任意性が肯定でき、当事者の証拠同意もある本件のような特段の事情がある場合、当該自白の証拠能力は認められる。
実務上の射程
任意性や違法収集証拠の論点において、手続の「不当性」が認められる場合でも、その後の適法な手続(逮捕・勾留)や被告人の公判態度によって、違法性が遮断または治癒される構成として利用できる。特に自白の任意性の有無を判断する際の総合評価の一例として位置づけられる。
事件番号: 昭和26(れ)1101 / 裁判年月日: 昭和26年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が警察において行った自白が、強制や拷問によるものと認められない場合には、憲法38条2項および刑訴法319条1項による自白の証拠能力の排除はなされない。 第1 事案の概要:被告人らは、警察における自白が強制や拷問によって得られたものであると主張して、その証拠能力を争い、最高裁判所に上告した。し…