第一審判決が被告人の司法警察員に対する供述(自白)調書を他の証拠と綜合して犯罪事実を認定し、原判決もまたその自白の任意性を認め、第一審判決の右採証を是認している場合、諸般の証拠上、右自白の任意性に疑いがあるとみるのが相当で(判文参照)、且つ同自白が犯罪事実認定の有力な証拠となつていると認めるときは、刑訴第四一一条第一号により原判決を破棄することができる
原判決が是認した第一審判決の採証する自白調書の任意性に疑いがあると認められる場合と刑訴法第四一一条第一号による原判決の破棄
刑訴法411条1号,刑訴法322条1項,刑訴法319条1項,刑訴法335条1項,刑訴法317条,憲法38条2項
判旨
自白の任意性に疑いがある場合、その自白を証拠として犯罪事実を認定することは証拠法則に違反し、判決に影響を及ぼすべき違法となる。警察官による暴行・脅迫の主張に対し、客観的事実や供述の不自然な変遷、取調状況の不透明さが認められるときは、自白の任意性を否定すべきである。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法319条1項にいう「任意にされたものでない疑のある自白」の判断基準と、苛酷な取調が疑われる状況下での自白の証拠能力。
規範
憲法38条2項、刑訴法319条1項に基づく自白排除法則により、強制、拷問、脅迫等による自白、または任意にされたものでない疑いのある自白は、証拠とすることができない。裁判所は、取調の経過、被告人の供述内容の変遷、客観的状況等を総合考慮し、任意性の存否を慎重に判断すべきである。
重要事実
被告人は殺人等の容疑で警察に検挙された後、連日の取調を受け自白に至ったが、公判では警察官から殴打、蹴り、膝の上に乗る等の苛酷な暴行を受けたと主張。同房者の証言により被告人が足に薬を塗っていた事実、家族の証言により顔の腫れ(むくみ)が認められたほか、実際には薬が差し入れられていた。また、自白内容が犯行日時や道具等の重要部分で変遷しており、さらに取調担当者と調書作成者が異なる不自然な運用も認められた。捜査に従事した検事すら自白に疑念を抱いていた。
あてはめ
警察官は暴行を否定するが、被告人の怪我や薬の使用を裏付ける第三者の証言、家族による外傷の目撃等の客観的事実が認められる。自白内容も記憶違いとは考えにくい重要部分で変遷しており、真実性への疑義がある。さらに、主たる取調官が自ら調書を作成せず他者に作成させるという不透明な運用もなされている。これらを総合すれば、取調が苛酷なものであった可能性を排除できず、自白の任意性には重大な疑いがあるといえる。
結論
自白の任意性を認めた原判決には、採証すべからざる証拠を証拠とした違法がある。よって、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
自白の任意性が争われる事案において、被告人の供述のみならず、傷跡の有無、薬の使用、親族・同房者の目撃証言、さらには取調の形式的体制や検察官の評価といった「諸般の事情」を総合して任意性を判断する際の指針となる。
事件番号: 昭和34(あ)746 / 裁判年月日: 昭和35年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の供述調書が証拠として採用されるためには、任意性に欠けるところがなく、かつ真実性があることが必要である。また、拷問等の不当な手段によりなされた疑いがないことも、証拠能力を認める前提となる。 第1 事案の概要:被告人AおよびBは刑事事件で起訴され、第一審において捜査段階(司法警察員および検察官…