執行猶予期間を経過した前科を量刑上参酌することは違法ではないとして憲法一四条一項、三七条一項違反の主張が欠前提とされた事例
憲法14条1項,憲法37条1項
判旨
刑の執行猶予期間を満了し、刑法27条により刑の言い渡しが効力を失った前科であっても、その言い渡しを受けたという既往の事実を量刑上の資料として参酌することは憲法14条1項等に違反せず、適法である。
問題の所在(論点)
刑の執行猶予期間を経過し、刑法27条により効力を失った前科(いわゆる失効した前科)を、後の別罪の量刑において参酌することが許されるか。具体的には、これが憲法14条1項や37条1項に違反しないかが問題となる。
規範
刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予期間を経過し、刑法27条に基づき刑の言渡しがその効力を失った場合であっても、被告人が過去にその言渡しを受けたという「既往の事実そのもの」については、裁判所が適正な量刑を決定するに際して参酌すべき資料とすることができる。
重要事実
被告人には過去に刑の言渡しを受けた前科が存在したが、当該前科については執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予期間を経過していた。そのため、刑法27条の規定により、当該刑の言渡しは既にその効力を失っていた。原審がこの既往の前科事実を量刑の判断材料としたことに対し、被告人側は憲法14条1項(法の下の平等)および憲法37条1項(公平な裁判所の裁判を受ける権利)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
量刑は、被告人の性格、経歴、犯行の動機、態様等の諸般の事情を総合考慮して決定されるべきものである。刑法27条により刑の言渡しの法的効果(資格制限等)が消滅したとしても、被告人が過去に犯罪を犯し、刑の言渡しを受けたという客観的な歴史的事実までが否定されるわけではない。したがって、裁判所が被告人の経歴の一部として当該事実を把握し、責任非難の程度や再犯可能性の予測等の観点から量刑上考慮することは、刑事裁判における合理的な裁量の範囲内といえる。これは平等の原則や公平な裁判の保障に抵触するものではない。
結論
失効した前科であっても、既往の事実として量刑上参酌することは適法である。
実務上の射程
量刑事情(一般情状)に関する判例である。答案上は、前科・犯歴の証拠能力や、刑法27条の解釈として「既往の事実」の参酌可能性を論じる際に活用する。特に被告人の情状を悪く評価する根拠として、失効前科を挙げることの正当化に用いる。
事件番号: 昭和55(あ)1843 / 裁判年月日: 昭和56年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法27条により刑の言渡が効力を失った場合であっても、当該刑の言渡を受けたという既往の事実は、後の犯行に対する量刑の資料として参酌できる。 第1 事案の概要:上告人は、過去に刑の言渡を受け、執行猶予の言渡を取り消されることなく猶予期間を経過していた。これにより刑法27条の規定に基づき当該刑の言渡は…