第一審裁判所から控訴審裁判所への記録の送付が四年一月を費やしたとしても、本件記録が他事件の記録の一部になつており、被告人側から審理促進を求める積極的な申し出もなく、被告人の防禦権の行使に特に障害を生じたものとも認められない等の事情のある本件においては、いまだ憲法三七条一項に定める迅速な裁判の保障条項に反する異常な事態に立ち至つたものとはいえない。
憲法三七条一項の迅速な裁判の保障条項に反する異常な事態が生じていないものとされた事例
憲法37条1項
判旨
第一審判決後の記録送付の遅延が裁判所の不適切な措置によるものであっても、被告人側の促進要請の欠如や防御権行使への具体的支障がない等の事情を考慮し、憲法37条1項に反する異常な遅延とは認められないとした。
問題の所在(論点)
第一審判決後、控訴審への記録送付に4年1か月を要した事態が、憲法37条1項の保障する「迅速な裁判」を受ける権利を侵害し、免訴事由となるような異常な審理の遅延にあたるか。
規範
裁判の迅速(憲法37条1項)が侵害されたか否かは、遅延の期間だけでなく、遅延の原因、被告人の権利に対する影響、及び被告人が迅速な裁判を求めていたか等の諸事情を総合考慮し、その遅延が「異常」な事態に至っているかによって判断する(高田事件大法廷判決の趣旨参照)。
重要事実
被告人が収賄罪で起訴された事件。第一審判決後、控訴審裁判所への記録送付までに4年1か月の期間を要した。この遅延の原因は、本件記録が関連する他事件の記録の一部となっていたため、第一審裁判所が関連事件の終結を待って送付しようとした点にある。しかし、記録の写しの作成や一時的な取り寄せなどの方法をとることは可能であり、第一審裁判所の措置は適切を欠くものであった。
あてはめ
まず、記録送付の遅れは裁判所の不適切な措置に起因し、被告人の責に帰すべき事由はない。しかし、①被告人側から審理促進の申入れ等の積極的な行動がなされていないこと、②第一審で事実審理がほぼ終了しており、証拠散逸等により防御権の行使が困難になったとの特段の事情もないことを指摘できる。これらの事情を総合すると、期間の長さのみをもって直ちに憲法の保障に反する異常な事態に至ったとはいえない。
結論
本件における審理の遅延は、憲法37条1項に違反するほどの異常な事態には至っておらず、上告は棄却される。
実務上の射程
司法試験では、高田事件判決の規範を前提としつつ、本判例を「判決後の手続上の遅延」における具体的事例として活用する。あてはめでは、期間の長短だけでなく、被告人側の態度や具体的防御権への支障(実害)の有無を重視する判断枠組みとして有用である。
事件番号: 昭和50(あ)389 / 裁判年月日: 昭和50年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する迅速な裁判を受ける権利の侵害の有無は、審理の遅延の程度や原因等の諸事情を総合して判断されるべきであり、本件においては記録に照らし著しい遅延は認められない。 第1 事案の概要:被告人A、B、Cらは、各弁護人を通じて、本件の審理が憲法37条(迅速な裁判)、31条(適正手続)、1…
事件番号: 昭和51(あ)856 / 裁判年月日: 昭和52年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する迅速な裁判を受ける権利の侵害の有無は、公判審理の経過や事案の内容等を総合的に考慮して判断される。審理の遅延が同条項に反するほどに著しくない場合には、上告理由としての憲法違反の主張は前提を欠き認められない。 第1 事案の概要:本件は、多数の被告人(AからIまで)が関与した事件…