迅速裁判保障条項違反の異常事態が生じていないとされた事例
憲法37条1項
判旨
憲法37条1項が保障する迅速な裁判の権利は、裁判の遅延が異常な事態に立ち至った場合に侵害されるが、本件のように起訴から控訴審公判開始まで相当の期間を要していても、諸般の事情を総合すれば直ちに違憲とはならない。
問題の所在(論点)
刑事裁判における起訴から控訴審審理開始までの長期にわたる期間の経過が、憲法37条1項の保障する「迅速な裁判」を受ける権利を侵害し、違憲といえるか。
規範
憲法37条1項の「迅速な裁判」を受ける権利が侵害されたか否かは、遅延の期間だけでなく、記録上うかがわれる諸般の事情を総合して、それが「迅速な裁判の保障に反する異常な事態」にまで立ち至っているか否かによって判断すべきである(高田事件大法廷判決の枠組みを準用)。
重要事実
被告人に対する第一回の起訴がなされた後、原審(控訴審)の公判審理が開始されるまでに、弁護人が主張するように「相当の年月」を要した。被告人側はこの審理の遅延を理由に、憲法37条1項違反を主張して上告した。
あてはめ
本件において、第一回の起訴から控訴審公判開始まで相当の年月を要している事実は認められる。しかし、記録上の諸般の事情を総合的に考慮すれば、当該遅延は憲法が禁止する「異常な事態」にまで立ち至ったものとは評価できない。したがって、迅速な裁判の保障に反する事実は認められない。
結論
本件の審理の遅れは憲法37条1項に違反する異常な事態とはいえず、上告を棄却する。
実務上の射程
司法試験等の答案においては、高田事件判決(最大判昭47.12.20)の判断枠組みを想起しつつ、単なる期間の長短だけでなく、遅延の理由や被告人の不利益などの「諸般の事情」を総合考慮して「異常な事態」か否かを検討する際のあてはめの参考となる。本判決は、単なる審理の停滞が直ちに免訴等の救済に結びつくわけではないことを示している。
事件番号: 昭和49(あ)2628 / 裁判年月日: 昭和50年8月6日 / 結論: 棄却
第一審裁判所から控訴審裁判所への記録の送付が四年一月を費やしたとしても、本件記録が他事件の記録の一部になつており、被告人側から審理促進を求める積極的な申し出もなく、被告人の防禦権の行使に特に障害を生じたものとも認められない等の事情のある本件においては、いまだ憲法三七条一項に定める迅速な裁判の保障条項に反する異常な事態に…
事件番号: 昭和51(あ)856 / 裁判年月日: 昭和52年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する迅速な裁判を受ける権利の侵害の有無は、公判審理の経過や事案の内容等を総合的に考慮して判断される。審理の遅延が同条項に反するほどに著しくない場合には、上告理由としての憲法違反の主張は前提を欠き認められない。 第1 事案の概要:本件は、多数の被告人(AからIまで)が関与した事件…