いったん公判期日に出頭した被告人が裁判長から法廷の秩序維持のため退廷を命ぜられたときは、裁判所は刑訴法三四一条に基づき、被告人不在のまま当日の公判審理を行うことができる。
いったん公判期日に出頭した被告人が法廷の秩序維持のため退廷を命ぜられたとき裁判所は刑訴法三四一条により当日の公判審理を行うことができるか
刑訴法341条
判旨
裁判長から法廷の秩序維持のため退廷を命ぜられた被告人がいる場合、刑訴法341条を類推適用し、被告人不在のまま審理を行うことができる。これは、被告人が自らの秩序攪乱行為によって防御権を放棄したものと解されるからである。
問題の所在(論点)
被告人が裁判長の命令により退廷させられた場合に、被告人不在のまま審理を続行することは、被告人の出席権、防御権(憲法31条、37条)および刑訴法の規定に反し許されないのではないか。退廷命令後の審理続行の可否と刑訴法341条の関係が問題となる。
規範
刑訴法341条が被告人の陳述を聴かずに判決できると定めた趣旨は、被告人による正当な防御権の放棄にあり、この理は判決の前提となる審理手続にも妥当する。したがって、公判期日に出頭した被告人が法廷の秩序を乱し、裁判長から退廷を命ぜられたときは、裁判所は同条に基づき(または同条の趣旨を類推し)、被告人不在のまま当日の公判審理を行うことができる。
重要事実
被告人らは第一審において、本件とは法律上の共犯関係にない多数の他事件との併合審理(統一公判)を要求した。裁判所がこの要求を容れなかったところ、被告人らは裁判長の訴訟指揮に従わず、法廷の秩序を乱した。そのため、裁判長は秩序維持を目的として被告人らに対し退廷命令を発した。その後、被告人ら不在の状態で当日の証拠調べ等の公判手続が続行された。なお、被告人らの退廷中も弁護人は証拠調べに立ち会っており、反対尋問の機会は与えられていた。
事件番号: 昭和51(あ)1060 / 裁判年月日: 昭和52年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が裁判長の訴訟指揮に従わず、法廷の秩序を乱したために退廷命令が発せられた場合、当該被告人は自ら在廷して陳述する機会を放棄したものと解され、その不在下で審理を進めても憲法31条、37条1項・2項に違反しない。 第1 事案の概要:第一審の公判手続において、被告人が裁判長の訴訟指揮に従わずに法廷の…
あてはめ
被告人らは、裁判長の適法な訴訟指揮に従わず法廷の秩序を乱しており、これにより退廷を命じられるに至った。このような事態を招いた被告人の行為は、自ら反対尋問権等の防御権を放棄したものと評価できる。また、被告人が不在であっても、弁護人が証拠調べに終始立ち会い、反対尋問の機会も保障されていたことから、実質的な防御権の侵害はないといえる。したがって、刑訴法341条の趣旨に基づき、被告人不在のまま審理を進めることは適法である。
結論
被告人が法廷秩序を乱して退廷を命じられた場合、被告人不在のまま公判審理を行うことは適法であり、憲法および刑訴法に違反しない。
実務上の射程
法廷秩序を乱す被告人に対する強力な訴訟指揮権を認める射程を有する。答案上は、被告人の出席権(刑訴法286条)の例外として、刑訴法341条の類推適用や防御権放棄の法理を論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和50(あ)731 / 裁判年月日: 昭和53年6月28日 / 結論: 棄却
刑訴法三二六条二項は、被告人が秩序維持のため退廷を命ぜられ同法三四一条により審理を進める場合においても適用される。
事件番号: 昭和50(あ)1321 / 裁判年月日: 昭和51年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が法廷の秩序を乱し退廷命令を受けた場合や、国選弁護人が辞任届を提出しつつ不出廷を貫く場合において、被告人不在・弁護人不出廷のまま審理・判決を行うことは、憲法31条、37条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは、第一審裁判所が被告人及び弁護人側の要求する事前の統一折衝や特定の審理方式を受…
事件番号: 昭和48(あ)2866 / 裁判年月日: 昭和49年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事裁判における分割審理(併合罪の一部分離・先行審理)は、審理の便宜上やむを得ない事情があり、かつ被告人の防御権に著しい支障を与えない限り、憲法31条、37条等に違反せず適法である。 第1 事案の概要:被告人が関与したとされる事件につき、第一審裁判所がいわゆる「分割審理」の手法を用いた。これに対し…