第一審裁判所が辞任届を提出している国選弁護人を解任しないで弁護人不出廷のまま任意弁護事件の審理判決をしたのは憲法三七条三項に違反するとの主張が欠前提とされた事例
判旨
被告人が法廷の秩序を乱し退廷命令を受けた場合や、国選弁護人が辞任届を提出しつつ不出廷を貫く場合において、被告人不在・弁護人不出廷のまま審理・判決を行うことは、憲法31条、37条に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が退廷命令により不在である場合や、弁護人が辞任届を提出して不出廷である場合に、そのまま審理・判決を進めることが、被告人の防御権(憲法37条1項、3項)や適正手続(憲法31条)に反しないか。
規範
被告人が裁判長の訴訟指揮に従わず法廷の秩序を乱したため退廷命令が発せられた場合、被告人不在のまま審理・判決を行うことは、適正な手続の確保及び裁判の迅速という観点からやむを得ない措置として許容される。また、弁護人が辞任届を提出しつつ不出廷を継続する場合において、裁判所が当該弁護人を解任せず、かつ弁護人不在のまま審理・判決を行うことも、諸般の事情に照らし適法な訴訟指揮として認められる。
重要事実
被告人らは、第一審裁判所が被告人及び弁護人側の要求する事前の統一折衝や特定の審理方式を受け入れなかったことに反発。被告人らは裁判長の訴訟指揮に従わず法廷の秩序を乱したため、退廷命令を受けた。また、国選弁護人は辞任届を提出した上で公判に出廷しなかった。第一審裁判所は、国選弁護人を解任しないまま、かつ被告人ら及び弁護人がいずれも欠席した状態で、本件の審理及び判決を言い渡した。
あてはめ
まず、被告人らに対する退廷命令は、彼らが裁判長の訴訟指揮に従わず法廷の秩序を乱した事実に基づき発せられたものである。このような自らの不適切な行為により生じた欠席状態において、被告人不在のまま審理・判決を進めることは、公判秩序の維持のために「やむを得ない措置」といえる。次に、国選弁護人の不出廷についても、辞任届が提出されているものの解任されないまま不出廷を続けている状況下で審理を進めたことは、訴訟の不当な遅延を回避する観点から正当な判断とされる。これら一連の措置は、憲法が保障する諸権利を侵害するものとはいえない。
事件番号: 昭和51(あ)1060 / 裁判年月日: 昭和52年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が裁判長の訴訟指揮に従わず、法廷の秩序を乱したために退廷命令が発せられた場合、当該被告人は自ら在廷して陳述する機会を放棄したものと解され、その不在下で審理を進めても憲法31条、37条1項・2項に違反しない。 第1 事案の概要:第一審の公判手続において、被告人が裁判長の訴訟指揮に従わずに法廷の…
結論
被告人不在及び弁護人不出廷のまま審理・判決を行った第一審の判断は正当であり、憲法31条、32条、37条に違反しない。
実務上の射程
本判決は、被告人側がいわゆる「審理拒否」の態度をとった場合における裁判所の訴訟指揮権の限界を示したものである。被告人自身の排斥(退廷命令)や弁護人の不出廷という異常事態においても、それが被告人側の責めに帰すべき秩序乱用によるものであれば、防衛権の放棄と実質的に同視し、欠席裁判が許容される射程を認めている。
事件番号: 昭和50(あ)1699 / 裁判年月日: 昭和51年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人との信頼関係の破綻を理由とする国選弁護人の辞任申出に対し、その責任が被告人側にもあること等の諸般の事情を考慮して辞任を認めないことは、憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:国選弁護人が、被告人らとの信頼関係が破綻したことを理由に裁判所に対して辞任の申出を行った。これに対し、第一審裁…
事件番号: 昭和49(あ)2469 / 裁判年月日: 昭和50年9月11日 / 結論: 棄却
いったん公判期日に出頭した被告人が裁判長から法廷の秩序維持のため退廷を命ぜられたときは、裁判所は刑訴法三四一条に基づき、被告人不在のまま当日の公判審理を行うことができる。
事件番号: 昭和50(あ)271 / 裁判年月日: 昭和50年10月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が国選弁護人の辞任申出を却下したとしても、弁護活動が不十分であったと認められない限り、憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の第一審公判において、国選弁護人が辞任の申出を行ったが、裁判所はこれを容れなかった。また、被告人側は本件と他事件との併合審理を要求したが、これも認められ…
事件番号: 昭和50(あ)887 / 裁判年月日: 昭和51年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律上共犯関係にない多数の事件との併合審理を拒否すること、及び国選弁護人の辞任申出を却下し弁護活動を継続させることは、特段の事情がない限り被告人の権利を侵害するものではない。 第1 事案の概要:被告人らは、自らの事件と「昭和44年10月11月闘争」と称される多数の別事件との併合審理(統一公判)を求…