判旨
別件勾留・留置中の被告人に対し、勾留の目的となっていない事件について取り調べを行うことは、直ちに違法とはならず、その自白の任意性が否定されない限り、証拠能力は認められる。
問題の所在(論点)
勾留中の被疑者に対し、勾留事実とは異なる別件について取調べを行うことの適法性、および当該取調べによって得られた自白の証拠能力(刑事訴訟法319条1項)。
規範
被疑者の勾留は、当該事件の被疑事実を前提として行われるものであるが、勾留中の被疑者に対して勾留の目的ではない別件について取り調べを行うこと自体は、強制手段による取調べに当たらない限り、直ちに違法となるものではない。したがって、その取調べの過程において、被疑者の意思の自由を制限するような不当な威圧、誘導、または過度に長時間の取調べ等の事情がなく、自白が任意になされたと認められる場合には、その証拠能力は否定されない。
重要事実
被告人両名は、窃盗罪等の容疑で適法に勾留・留置されていたところ、その勾留期間中に、勾留の目的とはされていない強盗殺人事件等についても余罪として取調べを受けた。被告人らは、連日にわたる深夜までの取調べにより自白を強要されたと主張し、当該自白の任意性と、別件勾留中の取調べという手続の違法性を理由に、自白調書の証拠能力を争った。一審および二審は、取調べの態様や経緯を総合考慮し、自白の任意性と手続の適法性を認めていた。
あてはめ
本件において、被告人らは別件の窃盗事実等により適法に勾留されていた。強盗殺人事件に関する取調べは、勾留の目的外ではあるものの、取調べ自体に任意性が認められる限り禁止されない。判決によれば、取調べの際、警察官から「正直に話すのが一番だ」といった説得はあったものの、暴行や脅迫、不当な誘導があったとは認められない。また、連日深夜に及ぶ取調べがあったとしても、それが直ちに意思の自由を奪うほどの強制に当たるとはいえない。被告人らは当初否認していたが、証拠の提示等を受けて自発的に自白に至った経緯が認められ、その内容は客観的事実とも合致している。したがって、自白は任意になされたものと解される。
結論
別件勾留中の取調べであっても、それが強制にわたらない限り適法であり、本件自白は任意性が認められるため証拠能力を有する。
事件番号: 昭和49(あ)2470 / 裁判年月日: 昭和52年8月9日 / 結論: 棄却
甲事実について逮捕・勾留の理由と必要があり、甲事実と乙事実とが社会的事実として一連の密接な関連がある場合(判文参照)、甲事実について逮捕・勾留中の被疑者を、同事実について取調べるとともに、これに付随して乙事実について取調べても、違法とはいえない。
実務上の射程
別件勾留・別件逮捕の事案において、実質的な取調べの違法性を争う際の基準となる。本判決は「取調べ受忍義務」の存否には直接踏み込んでいないが、実務上は「余罪取調べの限界」を画定する際の有力な指針として、取調べの態様(時間・方法)が任意性の枠組みで評価されることを示している。
事件番号: 昭和26(れ)2518 / 裁判年月日: 昭和30年4月6日 / 結論: 棄却
一 検察官が、まず甲事件について起訴勾留の手続をとつた後、右勾留中の被告人を乙事件の被疑者として取り調べたとしても、検察官においてはじめから乙事件の取調に利用する目的または意図をもつて、ことさらに甲事件を起訴し、かつ不当に勾留を請求したものと認められない場合には、右取調をもつて直ちに自白を強制し、不利益な供述を強要した…
事件番号: 昭和58(あ)626 / 裁判年月日: 昭和59年11月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】警察官による脅迫や強制等の事実が認められない限り、供述調書の任意性は否定されず、その証拠能力を認めた判断は正当である。 第1 事案の概要:被告人は強盗殺人および放火の罪で起訴された。弁護側は、被告人が警察官から脅迫や強制を受けたことにより自白がなされたものであり、当該供述調書には任意性がない(憲法…