甲事実について逮捕・勾留の理由と必要があり、甲事実と乙事実とが社会的事実として一連の密接な関連がある場合(判文参照)、甲事実について逮捕・勾留中の被疑者を、同事実について取調べるとともに、これに付随して乙事実について取調べても、違法とはいえない。
甲事実について逮捕勾留中の被疑者を乙事実について取調べることが違法ではないとされた事例
刑訴法60条1項,刑訴法198条1項,刑訴法198条2項,刑訴法199条
判旨
別件逮捕・勾留中に本件の取調べが行われたとしても、別件について逮捕・勾留の理由と必要性があり、かつ本件が別件と社会的事実として密接な関連を有し、取調べが別件についても当然必要な範囲内であれば、直ちに違法とはならない。
問題の所在(論点)
1. 別件逮捕・勾留の法理に基づき、本件取調べを目的とした別件の身柄拘束および再逮捕が違法となるか。2. 約束や不適切な取調べ状況(片手錠等)により、自白の任意性が否定されるか。
規範
1. 自白の任意性(刑訴法319条1項):約束による自白、不当に長い拘禁、心身に自由を拘束する不当な取調べ等により、任意性に疑いがある場合は証拠能力を欠く。2. 別件逮捕・勾留:別件について逮捕・勾留の理由と必要性があり、かつ実質的に本件の潜脱を目的としたもの(令状主義の潜脱)でない限り適法である。別件と本件に密接な関連がある場合、別件勾留中に本件を取調べても、それが別件の取調べとしての性質も有する限り違法ではない。3. 再逮捕の禁止:先行する逮捕・勾留と実質的に同一の被疑事実について繰り返される場合は原則として許されないが、別罪であれば各別に司法審査を受けるべきであり、同時捜査が可能であったとしても直ちに違法とはならない。
重要事実
被告人は、窃盗・暴行・恐喝未遂(別件)の容疑で逮捕・勾留された(第一次)。この間、捜査官は重大事件である強盗強姦殺人事件(本件)についても疑いを抱き、血液型検査やポリグラフ検査、本件に関する取調べを行った。第一次勾留満了後、別件で起訴勾留されたが、その後本件の証拠が整ったとして本件容疑で再逮捕・勾留された(第二次)。被告人は、この一連の身柄拘束が本件の取調べを目的とした「別件逮捕・勾留」であり、令状主義を潜脱する違法なものであるとして、その間に得られた自白の証拠能力を争った。また、取調官からの「自白すれば10年で出せる」との約束や、片手錠をかけられた状態での取調べにより任意性が失われたとも主張した。
事件番号: 昭和49(あ)1067 / 裁判年月日: 昭和53年7月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】別件勾留・留置中の被告人に対し、勾留の目的となっていない事件について取り調べを行うことは、直ちに違法とはならず、その自白の任意性が否定されない限り、証拠能力は認められる。 第1 事案の概要:被告人両名は、窃盗罪等の容疑で適法に勾留・留置されていたところ、その勾留期間中に、勾留の目的とはされていない…
あてはめ
1. 第一次逮捕・勾留は別件の容疑について理由と必要性が認められる。別件の恐喝未遂と本件は社会的事実として密接に関連しており、被告人の行動確認等は別件の捜査として当然必要であったため、本件の取調べを兼ねていても令状主義の潜脱とはいえない。2. 第二次逮捕は、第一次の時点では本件の証拠が不十分であり、その後の捜査で初めて理由・必要性が判明したものであるから、不当な蒸し返し(再逮捕の禁止)には当たらない。3. 任意性について、「10年で出せる」との約束は被告人の供述に真実性がなく認められない。片手錠については、両手錠に比して心理的圧迫は軽く、他の取調状況に照らしても任意性を疑わせる事情はない。接見拒否についても、正当な理由なき拒否の事実は認められない。
結論
本件の一連の逮捕・勾留および取調べ手続に違法はなく、また自白の任意性を否定すべき事情も認められないため、自白および派生証拠の証拠能力は肯定される。
実務上の射程
司法試験においては、別件逮捕・勾留の適法性(本件取調べ目的の有無や別件の具体的理由の存否)を論じる際のリーディングケースとなる。本判決は「本件・別件の関連性」や「別件自体の逮捕の必要性」を重視しており、答案ではこれらの事実を具体的に摘示して評価することが求められる。また、自白の任意性については、総合考慮の枠組みの中で「秘密の暴露」等の真実性担保の事情と併せて論じる際の参照となる。
事件番号: 昭和26(れ)2518 / 裁判年月日: 昭和30年4月6日 / 結論: 棄却
一 検察官が、まず甲事件について起訴勾留の手続をとつた後、右勾留中の被告人を乙事件の被疑者として取り調べたとしても、検察官においてはじめから乙事件の取調に利用する目的または意図をもつて、ことさらに甲事件を起訴し、かつ不当に勾留を請求したものと認められない場合には、右取調をもつて直ちに自白を強制し、不利益な供述を強要した…
事件番号: 昭和24(れ)349 / 裁判年月日: 昭和28年6月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条2項にいう「不当に長く拘禁された後の自白」とは、拘禁と自白との間に因果関係があることを要し、因果関係がないことが明らかな自白は含まれない。また、病状があっても審理に耐え得ると認められる限り、公判手続を停止しないことは適法である。 第1 事案の概要:被告人は強盗容疑で逮捕・勾留され、約11…
事件番号: 平成16(あ)932 / 裁判年月日: 平成19年7月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑適用に際しては、犯行の性質、動機、態様、結果の重大性、遺族の処罰感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等を総合的に考慮し、罪責が誠に重大であって、極刑がやむを得ないと認められる場合に許される。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、利得目的で2名の男性をそれぞれけん銃で頭部を…
事件番号: 平成12(あ)690 / 裁判年月日: 平成17年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の強盗殺人等に及んだ事案において、被告人の役割が共犯者と比較して主導性や積極性に劣り、自供による真相解明への貢献や反省の情が認められる場合には、死刑の選択を回避し無期懲役とした一審判決を維持することが許容される。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者Aと共に、2件の強盗殺人、1件の恐喝、および死…