関連民事事件と事実認定を異にすることを理由に事実誤認の疑いがあるとされた事例
刑訴法411条3号
判旨
強制執行を免れる目的での不動産仮装譲渡等の罪の成否において、前提となる債務の発生原因(手形振出等)への関与が否定される場合、事実誤認の疑いがある。このような重大な事実誤認を放置して有罪とすることは、刑訴法411条3号の「著しく正義に反する」ものとして破棄事由となる。
問題の所在(論点)
強制執行妨害目的の行為が認定される際、その前提となる債務(手形債務)の発生事実について重大な事実誤認の疑いがある場合、刑訴法411条3号に基づき原判決を破棄すべきか。
規範
上告裁判所は、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があり、かつ、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められるときは、職権をもって原判決を破棄することができる(刑訴法411条3号)。被告人が犯罪の前提となる債務負担行為に関与していない疑いが強い場合、その真意を探究せずに有罪とすることは、本規定の破棄事由に該当する。
重要事実
被告人は、山林立木代金債務を保証するために約束手形を共同で振り出したものの、その手形金の支払を免れる目的で自己所有の不動産を仮装譲渡等したとして起訴された。第一審および原審はこれを有罪としたが、関連する民事訴訟の控訴審判決では、被告人が本件手形の振出に関与しなかった事実が認定されていた。記録によれば、被告人は売買の立会人として署名押印し、使用目的を確認せず印章を交付したに過ぎない可能性があった。
あてはめ
原審は、被告人が手形を共同振出した事実を前提に、強制執行を免れる目的での不動産処分を認定している。しかし、民事判決の謄本や記録によれば、被告人は単に印章を交付したに過ぎず、手形振出に関与していない疑いが濃厚である。被告人の印章交付の真意を十分に探究せず、債務負担の事実を認めた原審の判断には、犯罪の成否に影響を及ぼす重大な事実誤認があるといえる。これを維持することは著しく正義に反すると解される。
結論
原判決には判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認があるため、刑訴法411条3号により破棄し、福岡高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
刑訴法411条(職権破棄)の具体例として重要である。特に関連する民事裁判での事実認定と刑事裁判での認定が矛盾する場合、それが「著しく正義に反する」ほどの事実誤認を基礎付ける有力な資料となり得ることを示している。答案上は、職権破棄の必要性を論じる際のあてはめの参照例となる。
事件番号: 昭和31(あ)1708 / 裁判年月日: 昭和35年6月24日 / 結論: 破棄差戻
一 刑法第九六条ノ二の「強制執行ヲ免ルル目約ヲ以テ」というためには、現実に強制執行を受けるおそれのある客観的な状態の下において、強制執行を免れる目的あることを要する。 二 執行名義が存在せず、単に債権者が債権の履行請求訴訟を提起したという場合に、同条の罪が成立するためには、行為の当時における基本たる債権の存在が肯定され…
事件番号: 昭和36(あ)2902 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
架空の金銭債権を記載した公正証書に基づく有体動産の仮装の競売手続により、債務者の所有物件があたかも名義上の競落人の所有に帰したかの如く偽つた行為(原判文参照)は、右財産の所有関係を不明にするものであつて、刑法第九六条ノ二にいわゆる財産の隠匿にあたる。
事件番号: 平成19(あ)2355 / 裁判年月日: 平成21年7月14日 / 結論: 棄却
刑法96条の2にいう「強制執行」には,民事執行法1条所定の「担保権の実行としての競売」が含まれる。