架空の金銭債権を記載した公正証書に基づく有体動産の仮装の競売手続により、債務者の所有物件があたかも名義上の競落人の所有に帰したかの如く偽つた行為(原判文参照)は、右財産の所有関係を不明にするものであつて、刑法第九六条ノ二にいわゆる財産の隠匿にあたる。
刑法第九六条ノ二にいわゆる財産の隠匿にあたるとされた事例。
刑法96条ノ2
判旨
強制執行妨害目的罪(刑法96条の2)における財産の「隠匿」には、単なる物理的な隠蔽のみならず、財産の所有関係を不明にする行為も含まれる。債務者が共謀の上、仮装の競売手続により第三者が所有権を取得したかのように装う行為は、同罪の隠匿に該当する。
問題の所在(論点)
強制執行妨害目的罪(刑法96条の2)における「隠匿」の意義。特に、仮装の競売手続等を用いて財産の所有関係を偽る行為がこれに含まれるか。
規範
刑法96条の2にいう財産の「隠匿」とは、財産の発見を不能または困難にする行為だけでなく、財産の所有関係を不明にして強制執行を免れさせる行為をも包含すると解するのが相当である。
重要事実
被告人は、債務者A等と共謀し、強制執行を免れる目的で、架空の債権等に基づく仮装の競売手続を行った。この手続を通じて、債務者Aの所有物件が、あたかも仮装の競落人であるBの所有に帰したかのように装い、外形上の所有関係を偽った。
事件番号: 昭和35(あ)31 / 裁判年月日: 昭和35年4月28日 / 結論: 棄却
刑法第九六条ノ二の犯罪の成立には、仮差押、仮処分その他の強制執行を免れる目的あるをもつて足り、その失効の全部または一部の行われたことを要するものでない。
あてはめ
本件において被告人らは、本来であれば差し押さえられるべきA所有の物件について、仮装の競売手続を履践している。この行為は、客観的には物件の所在を隠すものではないが、権利関係を仮装することで、執行官や債権者に対して真実の所有関係を不明にするものである。したがって、財産の所有関係を不明にする行為として、同条の「隠匿」に該当すると評価される。
結論
被告人が仮装の競落人に所有権が移転したかのように偽った行為は「隠匿」にあたり、強制執行妨害目的罪が成立する。
実務上の射程
物理的な隠蔽(家財道具を隠す等)に限らず、虚偽の譲渡や仮装の競売といった法律上の権利関係を操作する行為に対しても、広く本罪の成立を認めるための根拠として活用できる。答案上は、本罪の保護法益が国家の強制執行作用の適正な運用にあることを踏まえ、執行を困難にする法律的態様も「隠匿」に含むべきとする論拠を補強して論じるのが効果的である。
事件番号: 昭和27(あ)6836 / 裁判年月日: 昭和31年3月9日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決の確定した事実は「…(判決参照)…」というのである。しかし、本件記録に徴すれば、Aが、被告人のBに対する前記第五六一九一号公正証書による貸金債権六五〇〇〇円の譲渡契約を被告人との間に締結したのは、Aにおいて、右貸金債権が未だ消滅せず尚存在するものと信じたが故か、或は被告人において右公正証書の執行正本を入手し得…
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…
事件番号: 平成19(あ)2355 / 裁判年月日: 平成21年7月14日 / 結論: 棄却
刑法96条の2にいう「強制執行」には,民事執行法1条所定の「担保権の実行としての競売」が含まれる。
事件番号: 昭和52(あ)935 / 裁判年月日: 昭和52年9月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】仮装による所有権移転登記を公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)により処罰することは、真正なる公正証書の内容に対する公の信用を保護するためであり、憲法29条の財産権保障には違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、実体上の所有権移転の合意がないにもかかわらず、通謀等により仮装の所有権移転登記を…