刑法第九六条ノ二の犯罪の成立には、仮差押、仮処分その他の強制執行を免れる目的あるをもつて足り、その失効の全部または一部の行われたことを要するものでない。
刑法第九六条ノ二の罪の成立。
刑法96条ノ2
判旨
強制執行妨害目的財産隠匿罪(刑法96条の2)の成立には、強制執行を免れる目的があれば足り、現実に強制執行の全部又は一部が行われたことを要しない。
問題の所在(論点)
強制執行妨害目的財産隠匿罪(刑法96条の2)が成立するために、客観的に強制執行の全部又は一部が開始・実行されている必要があるか。
規範
刑法96条の2(判決当時の規定)にいう強制執行を免れる目的の罪の成立には、仮差押、仮処分その他の強制執行を免れる目的があれば足りる。犯罪の成立において、実際に強制執行の全部又は一部が行われたことは要件とならない。
重要事実
被告人が強制執行を免れる目的をもって、財産の隠匿等を行ったとされる事案において、弁護人は「強制執行の全部または一部が行われたこと」が必要であると主張し、憲法違反および法令違反を理由として上告した。なお、具体的な隠匿行為の詳細や対象財産については、判決文からは不明である。
あてはめ
事件番号: 昭和36(あ)2902 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
架空の金銭債権を記載した公正証書に基づく有体動産の仮装の競売手続により、債務者の所有物件があたかも名義上の競落人の所有に帰したかの如く偽つた行為(原判文参照)は、右財産の所有関係を不明にするものであつて、刑法第九六条ノ二にいわゆる財産の隠匿にあたる。
本罪は、強制執行の適正な実施という国家の裁判機能を保護するものである。条文上「強制執行を免れる目的」が要求されているが、これは主観的な目的を指すものであり、その目的を達するための行為(隠匿等)がなされれば、国家の執行機能に対する危険が生じる。したがって、現実の執行行為が開始されているか否かにかかわらず、当該目的をもって隠匿等の行為に及んだ時点で罪が成立すると解すべきである。
結論
被告人に強制執行を免れる目的がある以上、現実に執行が行われていなくても刑法96条の2の罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、本罪が「目的犯」であることを明確にし、未遂犯の規定がない中で、どの時点で既遂に達するかを画したものである。答案上は、債権者がまだ訴訟提起や執行申立てをしていない段階であっても、将来の執行を予期して財産を隠匿した場合には本罪が成立し得るという構成で用いる。ただし、現在の強制執行妨害目的財産隠匿罪(96条の2)は「強制執行を受けるべき状態」にあることが要件とされている点に留意が必要である。
事件番号: 昭和31(あ)1708 / 裁判年月日: 昭和35年6月24日 / 結論: 破棄差戻
一 刑法第九六条ノ二の「強制執行ヲ免ルル目約ヲ以テ」というためには、現実に強制執行を受けるおそれのある客観的な状態の下において、強制執行を免れる目的あることを要する。 二 執行名義が存在せず、単に債権者が債権の履行請求訴訟を提起したという場合に、同条の罪が成立するためには、行為の当時における基本たる債権の存在が肯定され…
事件番号: 平成19(あ)2355 / 裁判年月日: 平成21年7月14日 / 結論: 棄却
刑法96条の2にいう「強制執行」には,民事執行法1条所定の「担保権の実行としての競売」が含まれる。
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
事件番号: 昭和27(あ)6836 / 裁判年月日: 昭和31年3月9日 / 結論: 破棄差戻
第一審判決の確定した事実は「…(判決参照)…」というのである。しかし、本件記録に徴すれば、Aが、被告人のBに対する前記第五六一九一号公正証書による貸金債権六五〇〇〇円の譲渡契約を被告人との間に締結したのは、Aにおいて、右貸金債権が未だ消滅せず尚存在するものと信じたが故か、或は被告人において右公正証書の執行正本を入手し得…