一 車両が、幅員約一〇・一メートルの車道を進行して交差点に進入し、幅員約一七メートルの交差道路へ右折のため一時停止している場合、対向直進車との距離がなお七〇メートル以上もあるときは、対向車が異常な高速を出している等の特別な事情がないかぎり、右折車の運転者は、対向車の運転者が交差点進入にあたり前方を注視し法規に従つて速度を調節する等正常な運転をすることを期待しうるのであり、その場合右折車が対向車の到達前に右折し終わることは通常容易なことと認められるから、仮に被告人が同様の判断をもつて右折を開始したとしても、これをただちに軽率な行為として非難し、対向車との安全確認を怠つたものと断定することはできないものといわなければならない。 二 被告人は右折開始後道路中央線より約一メートル対向車線上に自車を進出させたときA車が約二四・九メートルの距離に迫つたのを認めて停止し、その際被告人車の右方(北方)の道路部分にはなお幅員四メートル以上の余裕があり、他に何らの障害物もなく、交差点に進入する時のA車の速度は時速五〇キロメートルであつたとすれば、被告人車が約一メートル中央線を越えたとしても、Aにおいて、急制動の措置をとるなり、僅かに左転把をしさえすれば、容易に衝突を回避できたはずであり、被告人としてもAがそのような適切な措置を講ずるであろうことを期待しうる状況にあつたというべきであるから、被告人が自車を対向車線上に約1メートル進出させたことをもつて本件事故の原因となる過失にあたるものと解するのは相当でない。
一 右折車両の運転者の対向直進車両に対する注意義務(距離が七〇メートル以上もある場合) 二 右折車両が対向車線上に約一メートル進出したことをもつて過失にあたるものと解されないとされた事例
刑法211条前段,道路交通法37条
判旨
交差点で右折する運転者は、対向車が異常な高速を出している等の特別の事情がない限り、対向車が交通法規に従い正常な運転をすることを期待してよい。そのため、十分な距離がある対向車の到達前に右折を完了できると判断して進行した行為は、直ちに安全確認義務違反の過失があるとは断定できない。
問題の所在(論点)
交差点を右折する運転者が、対向車の存在を認識しながら右折を開始し衝突に至った場合において、対向車が適切に回避措置を講じることを期待して進行した行為に業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)における注意義務違反が認められるか。
規範
交通事態における過失の有無を判断するにあたっては、他の交通関与者が交通法規を遵守して正常な行動をとることを信頼してよいとする「信頼の原則」が適用される。具体的には、対向車が異常な高速で走行している等の特別の事情がない限り、右折車の運転者は対向車が適切に前方注視や速度調節を行うことを期待し得る。
事件番号: 昭和47(あ)682 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 破棄差戻
交差点を右折するため、中央線に沿つて適式な右折合図をしながら右折を始めようとする車両の運転者としては、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)三四条二項に違反して交差点手前約六米の地点から右折を開始したとしても、それが、右規定に従つた右折方法に比し、後続車との衝突の危険を一層増大させるものでない場合には、…
重要事実
被告人は普通乗用車を運転し、丁字型交差点を右折しようとした際、前方約71メートルの対向車線上に自動二輪車(A車、時速約50キロメートル)を認めたが、前車の通過後、A車が到達する前に右折可能と判断して進行を開始した。被告人車が中央線を約1メートル越えて対向車線に進出した時点で、A車が約24.9メートルに接近したため停止したが、A車が被告人車に接触し転倒、傷害を負った。なお、現場にはA車が衝突を回避できる十分な余地(幅員4メートル以上)があった。
あてはめ
まず、右折開始時点で対向車との間に70メートル以上の距離があった本件では、対向車が異常な高速である等の特段の事情がない限り、右折を完了できると判断したことを軽率な非難に値する行為とは言えず、安全確認を怠ったとは断定できない。次に、被告人車が中央線を1メートル進出した時点でも、対向車側には4メートル以上の回避余地があり、被告人は対向車が適切な回避措置を講じることを期待し得た。したがって、かかる進出をもって直ちに事故の原因となる過失があったと解するのは相当ではない。
結論
被告人が対向車の到達前に右折可能と判断して進行した行為につき、直ちに安全確認義務を怠った過失があると断定することはできず、原判決には過失の認定において理由不備または事実誤認の疑いがある。
実務上の射程
交差点における右折車と直進対向車の事故において、信頼の原則を具体的に適用した事例である。司法試験においては、過失の有無(予見可能性・結果回避義務)を検討する際、相手方の適切な行動を期待できる客観的状況(距離、道路幅員、余地等)を事実から拾い、期待可能性を否定する方向での論証に活用できる。
事件番号: 昭和42(あ)1657 / 裁判年月日: 昭和43年7月16日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】交通法規を遵守して運転する者は、特別な事情がない限り、他の車両が法規に違反し無謀な運転に出ることまでを予見して事故防止措置を講じる義務はない。本件のように、優先車両の直前を逆走に近い形で強行突破する車両の出現は通常予想できず、信頼の原則により予見可能性が否定される。 第1 事案の概要:被告人は、ロ…