信号機による交通整理の行なわれている交差点を通過する自動車運転者は、信号機の表示するところに従つて自動車を運転すれば足り、いちいち徐行して左右道路の車両との交通の安全を確認すべき義務はない。
信号機による交通整理の行なわれている交差点を通過する自動車運転者の注意義務
刑法211条,道路交通法4条2項
判旨
信号機の交通整理が行われている交差点において、運転者は信号の表示に従って運転すれば足り、特段の事情がない限り、左右道路の車両を確認するために徐行すべき注意義務はない。もっとも、赤信号を無視して交差点に進入した場合には、依然として過失責任を免れない。
問題の所在(論点)
信号機による交通整理が行われ、かつ見通しの悪い変則的な交差点において、運転者は信号の表示に従うだけでなく、左右の安全確認のために徐行すべき注意義務を負うか。すなわち、信頼の原則がどこまで適用されるかが問題となる。
規範
信号機により交通整理が行われている交差点においては、運転者は信号機の表示に従って運転すれば、他の道路から進入する車両と衝突することはないと信頼するのが相当である。したがって、運転者は信号の表示に従って自動車を運転すれば足り、原則としていちいち徐行して左右道路の車両との交通の安全を確認すべき注意義務はない。
重要事実
本件交差点は、信号機による交通整理が行われていたが、被告人の走行道路(幅員約12.1m)と交差する道路(幅員約16m)の広さが異なり、かつ信号機が時差のある変則信号であった。さらに、交差点手前までは人家によって見通しが悪い状況にあった。原審はこれらの事情を理由に、被告人に徐行および左右の安全確認義務を課したが、被告人は自己の進路が赤信号であったにもかかわらず、あえて交差点を突破しようとして事故を起こした。
あてはめ
一般に信号機がある交差点では信号に従えば安全が確保されるはずであり、幅員差や見通しの悪さ、変則信号といった事情があっても、直ちに徐行・安全確認義務が発生するわけではない。原審が「徐行して左右の安全を確認すべき注意義務」を認めた点は法令の解釈を誤っている。しかし、本件被告人は「赤信号を表示しているのにあえて交差点を突破」しようとしたものであり、信号遵守を前提とした信頼の基礎を自ら放棄している。このような赤信号無視の事態においては、結果を回避すべき義務を怠ったものとして過失が認められる。
結論
被告人は、信号表示に従うべき義務に反して赤信号で進入しており、過失責任を免れない。したがって、注意義務の解釈に一部誤りはあるが、過失を認めた原判決の結論は相当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
交通事態における「信頼の原則」を明示した重要判例である。信号機が存在する交差点においては、他者が交通規則を遵守することを信頼してよいという法理を確立した。答案上は、過失の具体的注意義務を限定する場面で活用できる。ただし、本件のように自ら交通違反を犯している場合や、相手方の違反が容易に予見できるような特段の事情がある場合には、信頼の原則の適用が否定される点に注意を要する。
事件番号: 昭和48(あ)281 / 裁判年月日: 昭和48年12月25日 / 結論: 破棄差戻
交通整理の行なわれていない、見とおしの悪い交差点で、交差する双方の道路の幅員がほぼ等しいような場合、一時停止の標識に従つて停止線上で一時停止し発進進行しようとする自動車運転者としては、特別な事情がないかぎり、交差道路から交差点に進入しようとする車両が交通法規を守り交差点で徐行することを信頼して運転すれば足り、それ以上に…
事件番号: 昭和43(あ)490 / 裁判年月日: 昭和43年12月24日 / 結論: 破棄差戻
交差点において、青信号により発進する自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、赤信号を無視して右交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務はないものと解すべきである。