横領の犯意につき事実誤認の疑いがあるとされた事例
刑訴法411条3号,刑法252条
判旨
横領罪が成立するためには、対象物が他人の所有であることの認識(不法領得の意思の前提となる犯意)が必要である。他人の所有物であることの認識に合理的疑いが残る場合には、横領の犯意を認めることはできない。
問題の所在(論点)
刑法252条1項の横領罪において、被告人らが対象物を「自己の所有物」と信じていた場合に、他人の所有物であることの認識(犯意)を肯定できるか。
規範
刑法252条の横領罪が成立するためには、客体が「自己の占有する他人の物」であること、およびそれを領得する犯意(他人の所有物であることの認識を含む)が必要である。契約内容や当事者の主観、客観的状況から、他人の所有物であることの認識を否定しうる合理的な事情がある場合には、横領罪の成立を認めることはできない。
重要事実
被告人らは、土地所有者Bから土地を借用したAから賃借権を譲り受け、自動車修理工場を経営していた。その際、敷地内にあったB所有の旧事務所を改造し、新築した工場建物と一体のものとして会社名義で保存登記をし、融資の担保として根抵当権を設定した。一審および原審は、被告人らが事務所をB所有と知りながら横領したと判断したが、賃貸借契約書上は事務所が賃貸対象か不明確であり、Aも「建物は借りた感じはない」と供述していた。
あてはめ
賃貸借契約の内容が不明確であり、貸主・借主共に契約当時に建物の所有関係を明確に意識していなかった可能性がある。また、被告人らは契約締結や建設に具体的関与をしておらず、登記に際して事務所のみを除外せずに担保供与したことに合理的な理由がない(他人の物と知っていれば除外すれば足りる)。そうであれば、事務所を含む工場全体を自社の所有と信じていたという被告人らの弁解を虚偽と断じることはできず、他人の物の認識を欠く疑いがある。
結論
被告人らに横領の犯意を認めるには重大な事実誤認がある疑いがあり、有罪とした原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
故意(犯意)の存否が争点となる横領事件において、権利関係の複雑さや被告人の主観的認識を基礎づける事実を丁寧に拾う際の先例となる。不法領得の意思を論じる際の前段階として、対象物が「他人の物」であることの認識を欠く可能性を検討する手法として有用である。
事件番号: 昭和31(あ)3761 / 裁判年月日: 昭和35年5月6日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】横領罪の成立には「自己の占有する他人の物」であることを要するため、被告人が土地を売却した時点で当該土地が買主の所有に属していたかが厳格に確定されなければならない。無権利者が土地を売却した後、後に所有権を取得したとしても、直ちに買主が所有権を取得したと解して横領罪を認めることはできない。 第1 事案…