刑の量定に影響を及ぼすべき一審判決後の情状に関する重大の事実誤認の疑を理由に破棄差戻しをした事例
刑訴法411条3号,刑訴法393条2項
判旨
控訴審において量刑に重大な影響を及ぼす情状に関する証拠が提出された場合、裁判所が特段の事情なくその重要部分を看過または措信せず事実を認定することは、刑の量定に影響を及ぼすべき重大な事実誤認(刑訴法411条3号)にあたる。
問題の所在(論点)
量刑判断の基礎となる重要な情状事実(被害弁償の有無・程度)について、提出された証拠の重要な記載内容を看過した認定が、刑訴法411条3号の「重大な事実誤認」にあたるか。
規範
量刑に重大な影響を及ぼす情状に関する事実について、証拠上その存在が強く推認されるにもかかわらず、合理的な理由なくこれを看過し、または反証がないのにこれを措信せず事実を認定することは、著しく正義に反する重大な事実誤認となり、判決の破棄事由となる。
重要事実
業務上横領罪に加功した非身分者Bは、一審で実刑判決を受けた。Bは控訴審において、被害弁済のため土地(約444万円相当)の提供に加え、現金600万円を支払った旨が記載された弁護士作成の嘆願書を証拠提出し、検察官もこれに同意した。この600万円の支払いが認められれば求償債務が完済されるという状況であったが、原審は土地提供の事実のみを認定し、現金による弁済については何ら触れずに量刑を判断した。
あてはめ
本件における現金600万円の弁済は、共同正犯間の求償関係を完結させるものであり、Bにとって極めて重要な有利な情状である。証拠とされた嘆願書には当該弁済の事実が明記されており、検察官も同意している。さらに、この記載内容を否定するような反証は記録上存在しない。それにもかかわらず、原審が「債務の一部を返済している」として土地提供のみを認定し、現金弁済の点に言及しなかったことは、当該事実を看過したか、合理的な理由なく措信しなかったものといえる。これは量刑の基礎となる重大な事実の認定を誤ったものである。
結論
原判決には刑の量定に影響を及ぼすべき情状に関する重大な事実誤認があり、これを破棄しなければ著しく正義に反する。したがって、原判決を破棄し差戻すべきである。
実務上の射程
量刑不当を理由とする上告・控訴において、量刑の前提となる「情状事実」の認定ミスを「事実誤認」として構成する際の指針となる。特に客観的な弁済事実など、一事的に量刑を左右する有利な事実の主張に有効である。
事件番号: 昭和46(あ)2130 / 裁判年月日: 昭和47年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】余罪(未起訴の犯罪事実)を量刑の資料として考慮することは、実質的に当該余罪を処罰する趣旨でない限り、憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の刑事裁判において、裁判所が被害弁償に関する事実を量刑の検討に際して考慮した。これに対し、弁護人は、当該事実が実質的に余罪として認定・処罰されたもの…