判旨
業務上過失致死傷罪の公訴事実において、酒気帯び運転の事実は独立した犯罪事実としてではなく、過失の一態様として認定し、量刑の資料として考慮することが可能である。
問題の所在(論点)
業務上過失傷害罪の審理において、起訴されていない別罪(酒気帯び運転)に該当する事実を、過失の態様または量刑の資料として認定することが許されるか。
規範
特定の行為が別罪(道路交通法違反等)の構成要件に該当し得る場合であっても、主文に係る犯罪(業務上過失傷害罪等)の過失の内容を構成する一事情として認定し、これを量刑上の資料とすることは許容される。
重要事実
被告人が業務上過失傷害罪で起訴された際、原判決は道路交通取締法(当時)違反の罪としてではなく、業務上過失傷害罪における「過失の一態様」として、被告人が酒気を帯びて運転した事実を認定した。これに対し、弁護側は、別罪にあたる事実を認定することは違憲である等と主張して上告した。
あてはめ
原判決は、酒気を帯びて運転した事実を道路交通取締法違反の犯罪事実として認定したものではない。あくまで業務上過失傷害という公訴事実の中における「過失の態様」として右事実を挙げたに過ぎない。このような認定は、被告人の過失の程度を評価するための「量刑の一資料」として考慮されたものと解される。したがって、別罪の成立を前提とした二重処罰等の憲法違反の問題は生じない。
結論
酒気帯びの事実は過失の一態様および量刑資料として認定可能であり、上告を棄却する。
実務上の射程
過失犯の事案において、構成要件(過失)の内容を具体化する要素として、あるいは情状に関する事実として、起訴状に含まれない別罪的評価の事実を認定できることを示す。実務上、訴因の特定の程度や量刑判断の基礎となる事実の範囲を検討する際に参照される。
事件番号: 昭和46(あ)72 / 裁判年月日: 昭和46年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の過失の態様を明らかにするため、犯罪事実に密接に関連する事実を量刑上の情状として考慮することは、直ちに余罪を実質的に処罰する趣旨とはいえず、憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、業務上過失傷害の罪で起訴された。原判決は、被告人が酒酔いと睡気により正常な運転が困難な状態であった…
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…
事件番号: 昭和43(あ)917 / 裁判年月日: 昭和45年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死傷罪と道路交通法の酒気帯び運転の罪とは、1つの運転行為に付随するものであっても、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人が、酒気を帯びた状態で車両を運転し、その走行中に業務上の注意義務を怠ったことにより、人を負傷させる事故(業務上過失傷害)を起こした事案。弁護人は…
事件番号: 昭和40(あ)2793 / 裁判年月日: 昭和41年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項前段の救護義務違反と、同項後段の報告義務違反は、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。また、酒酔い運転の罪と業務上過失傷害の罪も、併合罪として処断されるのが相当である。 第1 事案の概要:被告人は酒酔い状態で車両を運転し、業務上の過失により他人に傷害を負わせた(業務上過失傷害)。そ…