判旨
自白にかかる犯罪構成事実の全部にわたって、いちいち補強証拠を必要とするものではなく、自白だけで認定しても憲法38条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
自白により認定される犯罪構成事実の全範囲について、個別に補強証拠が必要となるか(憲法38条3項の補強証拠の範囲)。
規範
憲法38条3項及び刑訴法319条2項が要求する補強証拠は、自白にかかる犯罪構成事実の全部にわたっていちいち存在することを要しない。犯罪の客観的側面(罪体)の主要部分について補強証拠があれば、他の細部については自白のみで認定することが許される。
重要事実
被告人は、左前方を同一方向に進行している自転車を自動車で追い越そうとした。その際、先行自転車の避譲を確認せず、安全な間隔を保つべき注意義務を怠ったことにより事故を起こしたとして過失運転致死傷罪等の罪に問われた。原判決は、被告人が先行自転車の避譲を確認しなかった事実等を認定したが、弁護人は当該事実について自白以外の補強証拠がないこと等を理由に、憲法38条3項違反を主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、先行車の避譲を確認しなかったという具体的な過失態様の細部について、必ずしも個別の補強証拠を必要としないとの判断を示した。本件において、被告人の過失の核心は「先行車の避譲の確認と安全な間隔の保持」という注意義務の懈怠にあるところ、原判決が自白に基づいてその詳細な事実(避譲を確認しなかったこと)を認定したとしても、犯罪の主要部分に補強証拠が認められる以上、憲法38条3項に違反するものではないとした。
結論
犯罪構成事実のすべてに個別の補強証拠は不要であり、本件の認定は憲法38条3項に違反しない。
実務上の射程
事件番号: 昭和42(あ)1662 / 裁判年月日: 昭和43年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】故意などの主観的要素の認定については、自白の外に直接の補強証拠を必要としない。憲法38条3項が定める補強証拠の要否に関し、罪体の一部たる故意は自白のみで認定可能であるという判断を示した。 第1 事案の概要:上告人は、犯罪事実の認定、特に故意(犯意)の認定について、自白以外の補強証拠が欠けていること…
補強証拠の範囲について「実質説」を再確認するものであり、実務上は、罪体(犯罪の客観的事実)の核心部分を裏付ける証拠があれば、具体的な犯行態様等の細部は自白のみで認定可能であると整理できる。答案上は、補強証拠の要否が問題となる場面で、本判例を引用しつつ「構成事実の全部にわたる必要はない」と論じる際に有用である。
事件番号: 昭和42(あ)2632 / 裁判年月日: 昭和43年3月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第三者の供述に基づき犯罪事実を認定することは、当該供述の信用性が認められる限り、憲法38条3項の「本人の自白」には該当せず、補強証拠がなくとも有罪判決の基礎とすることができる。 第1 事案の概要:被告人が「ひき逃げ」の事実で起訴された事案において、原審(控訴審)は、事件を目撃した第三者の供述を証拠…
事件番号: 昭和43(あ)543 / 裁判年月日: 昭和43年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白に加えて、被害者や目撃者等の供述調書が存在する場合には、これらを総合して犯罪事実を認定することができ、憲法38条3項の補強証拠を欠くものとはいえない。 第1 事案の概要:被告人が業務上過失傷害の罪に問われた事案において、原判決は被告人の自動車運転行為の業務性および傷害の事実を認定した。…
事件番号: 昭和43(あ)718 / 裁判年月日: 昭和46年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無免許運転の罪における「免許を受けていないこと」という事実は、被告人の自白のみでは証明できず、憲法38条3項及び刑訴法319条2項に基づき補強証拠を要するが、第三者の供述調書等があれば補強証拠として十分である。 第1 事案の概要:被告人が普通自動車の運転免許を有しない状態で自動車を運転したとして、…