被告人甲が乙に対して現金三〇万円を供与したとする本位的訴因と被告人甲が右乙と共謀のうえ、右現金中合計二四五、〇〇〇円を被告人丙他三四名に対して七、〇〇〇円宛それぞれ供与したとする予備的訴因との間には公訴事実の同一性が認められる。
甲が乙に三〇万円を供与したとする訴因と甲乙共謀のうえ右三〇万円のうち二四五、〇〇〇円について丙らに供与したとする訴因との間の公訴事実の同一性
刑訴法312条,公職選挙法221条1項1号
判旨
被告人が第三者に現金を供与したという本位的訴因と、当該第三者と共謀の上でその現金の一部を多数の者に分配供与したという予備的訴因との間には、公訴事実の同一性が認められる。
問題の所在(論点)
直接の金員供与(AからC)という本位的訴因と、その金員を原資とした共謀に基づく第三者らへの分配供与(A・CからJら)という予備的訴因との間に、公訴事実の同一性が認められるか。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)は、基本的事実関係が同一であることを要し、具体的には「罪体」の共通性と「非両立性」の有無を基準に判断される。両訴因が、時間的・場所的に密接に関連し、一連の経過として重なり合う関係にある場合には、公訴事実の同一性が肯定される。
重要事実
被告人Aが、一審相被告人Cに対して現金30万円を供与したとする本位的訴因(贈賄等の趣旨)に対し、予備的訴因として、被告人AがCと共謀の上、右現金30万円の中から合計24万5000円を、被告人Jら35名に対して各7000円ずつ供与したという事実が追加された。被告人側は、両訴因の間に公訴事実の同一性がないと主張した。
あてはめ
本件では、本位的訴因の対象である「30万円」と、予備的訴因における「24万5000円」は、同一の金員の一部であることが認められる。また、AからCへの授受という事実と、その後にAとCが協力して第三者へ配布したという事実は、時間・場所において密接に関連した一連の経緯を構成している。したがって、両訴因は、社会的な事実関係として共通の基礎を有しており、法的には非両立の関係にあるといえる。
結論
本位的訴因と予備的訴因の間に公訴事実の同一性が認められるとした原審の判断は相当であり、訴因の追加・変更は適法である。
実務上の射程
本判決は、供与の態様や相手方が異なる場合であっても、原資となる金員が同一であり、かつ一連の動機や目的の下で行われた行為であれば、公訴事実の同一性を広く認める実務の傾向を示している。答案上は、訴因変更の許否を判断する際、「基本的事実関係の同一性」を肯定する根拠として、金員の同一性や時間的密接性に言及する際に活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)3495 / 裁判年月日: 昭和28年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】複数の贈賄行為が同一の犯意に基づくものか否かは事実認定の問題であり、供与を受けた金員の一部を自己に保有しているような事情がある場合、各行為が独立した犯罪を構成すると認定することは適法である。 第1 事案の概要:被告人は、贈賄として供与を受けた金員について、その一部をそのまま自己の懐に保有し続けた。…