判旨
長期間の不適切な拘束下で得られた自白は、任意性に疑いがないとしても信用性は乏しく、また実験上着火の蓋然性が極めて低い事実については、自白のみに基づき過失を認定することは許されない。
問題の所在(論点)
不適切な取調状況下で得られ、かつ内容に変遷がある自白の信用性、および科学的実験結果に反する自白を基礎とした過失認定の可否が問題となる。
規範
自白の信用性を判断するにあたっては、自白に至るまでの取調状況(拘束の長さや態様)の適正さ、自白内容の変遷や整合性、および自白された事実の内容が客観的な科学的事実や経験則に照らして合理的であるかを総合的に検討すべきである。特に、他の補強証拠の証明力が十分でない場合、合理的な疑いを差し挟む余地のある自白に基づき有罪を認定することは許されない。
重要事実
被告人は倉庫の宿直勤務中、タバコの不始末により倉庫等397戸を焼失させたとして失火罪で起訴された。捜査段階では、2日間にわたる長時間の任意取調べが行われ、その間被告人は警察官の宿泊所に同行・宿泊させられるなど強制捜査に近い状況に置かれた。被告人は一度自白したが、後に否認に転じ、公判でも一貫して否認した。また、専門家による実験では、自白された態様でのタバコによる着火は極めて困難であるとの結果が出ていた。
あてはめ
まず、取調状況について、任意捜査の形をとりつつ長時間の取調べや宿泊同伴を強いており、密室での追及による心理的強制の疑いがある。また、自白内容を比較すると、喫煙の態様や出火を思い出した時期について顕著な食い違いがあり、変遷に合理性がない。さらに、専門家の鑑定によれば、タバコの吸い殻がわら屑等に着火するには特殊な条件が必要であり、被告人が自白した「無造作に捨てた」という態様では着火の蓋然性が極めて低い。このような科学的知見に反する自白内容を、十分な実験による検証なしに真実と断定することは、証拠の評価として合理性を欠く。
結論
自白の信用性が乏しく、補強証拠による証明も不十分である。原判決には法令違反および重大な事実誤認の疑いがあるため、これを破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
自白の任意性と信用性の区別を意識し、特に「任意性に疑いがない」とされる場合でも、取調状況の不当性(長時間拘束等)を信用性欠如の理由として主張する際のモデルとなる。また、自白内容が科学的実験結果(自然科学的法則)と矛盾する場合の証明力判断の好例である。
事件番号: 昭和40(あ)2928 / 裁判年月日: 昭和42年6月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】焚火を原因とする火災において、第一審判決が認定した事実関係に基づき、本件焚火と火災との間の因果関係を肯定した判断は相当である。憲法違反等の主張は実質的に単なる法令違反や事実誤認の主張に過ぎず、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が行った焚火を原因として火災が発生したとされる事案…