判旨
労働基本権を保障する憲法28条の下においても、争議行為等に伴う暴行・脅迫等の違法な行為について正当防衛(刑法36条1項)が成立するためには、急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防衛するため「やむを得ずにした行為」といえることが必要である。
問題の所在(論点)
労働運動に伴う実力行使がなされた場合に、刑法36条1項の正当防衛が成立するか。特に、その行為が「やむを得ざるに出た防衛行為」といえるか否かが争点となった。
規範
正当防衛(刑法36条1項)が成立するためには、①急迫不正の侵害に対し、②自己又は他人の権利を防衛するため、③「やむを得ずにした行為」(防衛行為の相当性)であることを要する。労働基本権を背景とした争議行為等における事案であっても、この刑事法上の一般的要件を満たさない限り、違法性は阻却されない。
重要事実
被告人らは、労働争議の一環として行われた行為(具体的な行為態様は判決文からは不明)につき、暴行罪や脅迫罪等の容疑で起訴されたものと考えられる。被告人らは、自らの行為が憲法28条に基づく正当な行為であること、あるいは相手方の侵害に対する正当防衛に当たることを主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、記録を検討した結果、被告人らが行った各所為は、客観的に見て「已むことを得ざるに出た防衛行為」とは認められないと判断した。労働基本権の保障があるとしても、具体的な侵害状況に照らして防衛手段としての必要性や相当性を欠く場合には、刑法上の正当防衛の要件を充足することはないと解される。
結論
被告人らの行為について正当防衛の成立を否定した原判決の判断は正当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
事件番号: 昭和40(あ)1955 / 裁判年月日: 昭和41年4月14日 / 結論: 棄却
憲法第二八条は、勤労者の団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障しているが、勤労者の争議権の無制限な行使を許容したものではなく、勤労者の右団体行動権と一般国民の基本的人権との調和を破らない範囲において勤労者の労働条件の維持改善等に必要且つ正当な限度においてのみこれを行使することを保障したものであることは、当裁判所の判…
本決定は、労働争議の文脈であっても、刑事罰の対象となる実力行使については、一般刑法上の正当防衛の枠組みで厳格に判断されることを示したものである。答案上は、争議行為の正当性(労組法1条2項)と正当防衛(刑法36条)を区別し、後者の検討においては防衛行為の相当性(必要最小限性)を慎重に吟味すべきことを示唆する資料として活用できる。
事件番号: 昭和61(あ)1311 / 裁判年月日: 平成3年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為等の労働組合活動が正当性を有し違法性を欠くというためには、その動機や目的のいかんにかかわらず、態様が社会通念上許容される限度を超えないものでなければならない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合活動の一環として何らかの行為(具体的な実行行為の内容は判決文からは不明)に及んだが、その態様が…
事件番号: 昭和41(あ)617 / 裁判年月日: 昭和42年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項の刑事免責は、労働組合の正当な行為についてのみ認められるものであり、暴力の行使に及ぶ行為は、正当な組合活動の範囲を逸脱するため、刑事免責の規定は適用されない。 第1 事案の概要:被告人は、労働組合活動の一環として本件行為に及んだが、その態様は暴力の行使を伴うものであった。第一審お…
事件番号: 昭和35(あ)861 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の団体行動権の保障は無制限ではなく、使用者に対する団体交渉において刑法上の暴行罪等に当たる行為が行われた場合には、正当な業務行為として刑事責任を免れることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、使用者との団体交渉において、刑法上の暴行罪等に該当する行為に及んだ。被告人らは、これらの行…
事件番号: 昭和42(あ)493 / 裁判年月日: 昭和42年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法上の正当な争議行為といえるためには、その手段・態様が社会通念上相当な範囲に留まる必要がある。本件では、被告人らの行為は正当性の限界を逸脱したものとして、刑事責任を免れないと判断された。 第1 事案の概要:判決文からは具体的な事実関係の詳細は不明であるが、労働組合員等である被告人らが、争議…