憲法第二八条は、勤労者の団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障しているが、勤労者の争議権の無制限な行使を許容したものではなく、勤労者の右団体行動権と一般国民の基本的人権との調和を破らない範囲において勤労者の労働条件の維持改善等に必要且つ正当な限度においてのみこれを行使することを保障したものであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決、刑集三巻六号七七二頁昭和二三年(れ)第一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決、刑集四巻一一号二二五七頁)。
憲法第二八条の法意。−勤労者の争議権−
憲法28条
判旨
憲法28条が保障する団体行動権は無制限ではなく、一般国民の基本的人権との調和を保ち、労働条件の維持改善等に必要かつ正当な限度においてのみ行使が保障される。
問題の所在(論点)
憲法28条が保障する団体行動権(争議権等)の限界、およびその行為が労働組合法1条2項(刑事免責)の対象となる「正当な行為」といえるか。
規範
勤労者の団体行動権は、一般国民の基本的人権との調和を破らない範囲において、労働条件の維持改善等に必要かつ正当な限度においてのみ保障される。したがって、この限度を超える行為は憲法28条による保障の対象外であり、労働組合法1条2項による刑事免責も受けられない。
重要事実
被告人らの具体的な行為態様については判決文からは不明であるが、第一審および原審において、労働組合法1条1項の目的達成のためにする正当な行為とは認められないと判断された各所為が存在する。被告人らはこれらの行為が憲法28条の団体行動権として保障されるべきであると主張して上告した。
事件番号: 昭和35(あ)861 / 裁判年月日: 昭和39年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の団体行動権の保障は無制限ではなく、使用者に対する団体交渉において刑法上の暴行罪等に当たる行為が行われた場合には、正当な業務行為として刑事責任を免れることはできない。 第1 事案の概要:被告人らは、使用者との団体交渉において、刑法上の暴行罪等に該当する行為に及んだ。被告人らは、これらの行…
あてはめ
判旨によれば、団体行動権の行使であっても、国民の基本的人権との調和を欠く場合や、労働条件の維持改善等の目的に照らして必要かつ正当な限度を超える場合は、憲法上の保障を受けない。本件被告人らの行為は、第一審が確定した事実関係に照らせば、前記の調和を破り、労働組合法の目的達成のための正当な行為とは認められない。したがって、正当な限度を超えたものと判断される。
結論
被告人らの行為は憲法28条の保障する限度を超えたものであり、労働組合法上の正当な行為に当たらないとした原判決の判断は正当である。
実務上の射程
労働基本権の限界に関する初期の判例(全逓東京中郵判決以前の法理)を示すもの。実務上は、争議行為の正当性の限界を論じる際、目的の正当性と手段の相当性の枠組みを裏付ける憲法上の根拠として、公共の福祉(他者の基本的人権)との調和を引用する際に活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)481 / 裁判年月日: 昭和27年6月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による団体交渉等の行為であっても、正当な目的の限度を逸脱した暴力行為は、労働組合法1条2項の趣旨に照らし、憲法28条の保障を受ける正当な行為とは認められない。したがって、かかる行為に対して暴力行為等処罰に関する法律を適用することは憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合員ま…
事件番号: 昭和38(あ)223 / 裁判年月日: 昭和39年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条が保障する団体行動権であっても、使用者側の自由意思を剥奪または極度に抑圧するような行為は許容されない。労働組合法1条2項による刑罰阻却も正当な行為に限られ、暴行罪等に当たる行為には適用されない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働争議の一環として団体交渉等の団体行動を行った際、暴行罪や住…
事件番号: 昭和41(あ)1424 / 裁判年月日: 昭和43年7月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働基本権を保障する憲法28条の下においても、争議行為等に伴う暴行・脅迫等の違法な行為について正当防衛(刑法36条1項)が成立するためには、急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防衛するため「やむを得ずにした行為」といえることが必要である。 第1 事案の概要:被告人らは、労働争議の一環として行…
事件番号: 昭和31(あ)1639 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働者の団体行動権の行使であっても、暴行・脅迫や住居侵入等の犯罪行為に至る場合は、憲法28条による正当な範囲内にあるものとして免責されず、違法性が認められる。 第1 事案の概要:被告人らは、労働運動上の示威行為として、社長宅の敷地内に設置されていた障壁を取り外し、示威行進を続けながら前庭内の通路部…