判旨
公職選挙法上の選挙運動の意義は不明確ではなく、選挙運動の期間制限およびその違反を処罰する規定は憲法31条に違反しない。また、被告人の自白以外に共犯者らの供述調書が存在する場合、自白のみによる有罪(憲法38条3項)の問題は生じない。
問題の所在(論点)
1. 公職選挙法における「選挙運動」の意義は、憲法31条の求める明確性の原則に照らして不明確といえるか。 2. 被告人の自白のほかに共犯者らの供述調書がある場合、憲法38条3項の自白のみによる有罪禁止に抵触するか。
規範
1. 憲法31条(罪刑法定主義)の観点から、刑罰法令の規定は、通常の判断能力を有する者の基準において、何が禁止されているかが予見可能である程度に明確でなければならない。 2. 憲法38条3項の補強証拠については、被告人の自白のみで有罪とされることを防ぐ趣旨であるから、共犯者の供述が証拠として存在すれば、それは独立した証拠となり得る。
重要事実
被告人は、300万円の受供与の事案につき、公職選挙法129条(選挙運動の期間制限)および239条1号(同違反罰則)に基づき起訴された。弁護人は、①「選挙運動」の意義が不明確であり、罪刑法定主義(憲法31条)に違反すること、②被告人の自白のみで有罪とされており補強証拠が欠けていること(憲法38条3項違反)、③供述の任意性に疑いがあること等を主張して上告した。
あてはめ
1. 選挙運動の意義について、公職選挙法の規定は不明確であるとはいえず、特定の期間に限定して運動を許容し、違反を処罰する構成要件は十分に規定されている。したがって、憲法31条に違反するとはいえない。 2. 事実関係によれば、被告人の自供調書のほかに、共犯者AおよびBの検察官に対する供述調書が証拠として提出されている。これら共犯者の供述は被告人の自白から独立した証拠価値を有するため、本件が被告人の自白のみで有罪とされたとの前提は妥当しない。 3. Bの供述内容は、自身の行動の詳細を秘匿しつつ一部の事実のみを認める性質のものであり、その内容自体から自由な意思に基づく任意性が認められる。
結論
公職選挙法の選挙運動期間制限および罰則規定は合憲である。また、共犯者の供述が証拠として存在する以上、憲法38条3項違反の主張は認められない。
実務上の射程
選挙犯罪における「選挙運動」の概念の明確性を肯定した重要判例である。答案上は、罪刑法定主義(明確性の原則)の論点において、本判例を引用し、社会通念上判断可能であれば合憲であるとする枠組みで活用できる。また、補強法則の論点において、共犯者の供述が補強証拠となり得ることを示す際の間接的な根拠としても有用である。
事件番号: 昭和42(あ)2594 / 裁判年月日: 昭和43年4月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法129条及び239条1号にいう「選挙運動」の意義は不明確ではなく、罪刑法定主義を定める憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、公職選挙法129条(選挙運動の期間制限)に違反して選挙運動を行ったとして、同法239条1号により処罰された。これに対し、上告人は「選挙運動」の意義が…