判旨
法人税法に基づく収税官吏の質問・検査権は、行政目的のためのものであり犯罪捜査を目的とするものではないため、これを適正に行使する限り、憲法38条の自己負罪拒否特権等には反しない。また、当該調査権が犯罪捜査のために悪用された実態が認められない限り、取得された証拠の証拠能力は否定されない。
問題の所在(論点)
法人税法45条等に基づく収税官吏の行政上の質問・検査権が、実質的に犯罪捜査のために利用された場合、またはその制度自体が、憲法38条の自己負罪拒否特権や憲法31条の適正手続きに違反しないか。
規範
租税の適正な賦課・徴収という行政目的のために認められた質問・検査権は、犯罪捜査を目的として認められたものではない。したがって、行政調査権が実質的に犯罪捜査のために利用されたと認められる特段の事情がない限り、適正な行政目的の範囲内で行われる調査によって得られた証拠は、憲法38条1項、2項および31条に違反するものではない。
重要事実
被告人は法人税法違反に問われたが、弁護人は、収税官吏が行う法人税法上の質問・検査が、自己負罪拒否特権(憲法38条1項、2項)や適正手続き(憲法31条)に違反すると主張した。第一審で提示された証拠は刑事訴訟法または国税犯則取締法に基づいて取得されたものであり、行政調査権が悪用された形跡は認められなかった。
あてはめ
本件における質問・検査権は、あくまで行政目的のためのものであり、犯罪捜査を目的としたものではない。第一審で挙示された証拠はすべて刑事訴訟手続等に準拠して取得されており、法人税法上の行政調査権に基づいて取得されたものではない。さらに、記録上、行政調査権が犯罪捜査の目的で不当に利用されたという証跡も、供述の任意性を疑うべき事情も認められない。
結論
行政調査権の行使が犯罪捜査のために利用された事実は認められず、憲法38条および31条に違反するという主張は前提を欠くため、本件上告は棄却される。
実務上の射程
行政調査と犯罪捜査の区別の限界(川崎民商事件の先駆け的判断)を示す判例。行政調査権の実質的・潜脱的利用がない限りは憲法違反の問題が生じないことを論じる際に使用する。答案上は、調査の目的・態様を検討し、それが「実質的な犯罪捜査」に至っていないかを論じる際の基準となる。
事件番号: 昭和35(あ)658 / 裁判年月日: 昭和35年8月4日 / 結論: 棄却
法人税法(昭和二九年法律第三八号による改正前のもの)第一八条第一項は憲法第三八条第一項に違反しない。