一 当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が、憲法三五条一項による保障の枠外にあることにはならない。 二 所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六三条、七〇条一〇号に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、憲法三五条の法意に反するものではない。 三 憲法三八条一項による保障は、純然たる刑事手続以外においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続にはひとしく及ぶものである。 四 所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六三条、七〇条一〇号、一二号に規定する質問、検査は、憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」の「強要」にあたらない。
一 刑事責任の追及を目的としない手続における強制と憲法三五条一項 二 所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六三条、七〇条一〇号に規定する収税官吏の検査は憲法三五条一項に違反するか 三 刑事手続以外の手続と憲法三八条一項 四 所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六三条、七〇条一〇号、一二号に規定する収税官吏の質問、検査は憲法三八条一項に違反するか
憲法35条1項,憲法38条1項,所得税法(昭和40年法律33号による改正前のもの)63条,所得税法(昭和40年法律33号による改正前のもの)70条10号,所得税法(昭和40年法律33号による改正前のもの)70条12号
判旨
所得税法に基づく質問検査権の行使は、刑事責任追及を目的とするものではなく、間接的な心理的強制に留まる限り、裁判官の令状を要せず、自己負罪拒否特権にも反しない。
問題の所在(論点)
行政上の目的で法的な義務として課される質問検査権の行使が、憲法35条の令状主義及び憲法38条1項の自己負罪拒否特権の保障の範囲に含まれるか。
規範
憲法35条及び38条1項の保障は、純然たる刑事手続に限らず、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続にも及ぶ。行政上の検査等がこれらの規定に違反するか否かは、①手続の目的が刑事責任追及にあるか、②強制の態様が直接的物理的強制と同視できるか、③公益上の必要性と比較して合理的・均衡な手段といえるかを総合して判断する。
重要事実
川崎税務署の職員が、被告人の昭和37年分所得税の過少申告を疑い、所得税法に基づき売上帳等の呈示を求めた。被告人はこれを拒否したため、当時の所得税法70条10号(検査拒否罪)に基づき起訴された。被告人は、令状なしに罰則による強制を伴う検査を認める規定は、憲法35条(令状主義)及び38条1項(自己負罪拒否特権)に違反すると主張して争った。
あてはめ
(1)本件検査は所得税の公平確実な賦課徴収を目的とするものであり、刑事責任追及を目的とせず、刑事資料収集に直接結びつく作用も一般的には有しない。範囲も事業に関する物件等に限定されており、刑事嫌疑を基準としていない。(2)強制の態様は、罰則による間接的・心理的なものに留まり、直接的物理的な強制と同視すべき程度には達していない。(3)徴税権の適正な運用という重大な公益目的に対し、本件程度の強制は実効性確保の手段として不合理・不均衡とはいえない。以上より、実質的に刑事責任追及に結びつく手続とは認められない。
結論
所得税法に基づく質問検査規定は、憲法35条及び38条1項に違反しない。
実務上の射程
行政調査全般に関するリーディングケースである。答案では、刑事訴訟法上の「強制の処分」の議論とは別に、行政調査における令状主義の要否や黙秘権の成否を論ずる際の枠組みとして活用する。目的の非刑事性と強制の程度(間接的な罰則に留まるか)が判断の鍵となる。
事件番号: 昭和45(あ)2339 / 裁判年月日: 昭和48年7月10日 / 結論: 棄却
一 所得税法二三四条一項は、同法二四二条八号の罪の構成要件の規定として、その意義が明確を欠くものではない。 二 所得税法二三四条一項にいう「納税義務がある者」とは、課税要件がみたされて客観的に納税義務が成立し、いまだ最終的に適正な税額の納付を終了していない者および当該課税年が開始して課税の基礎となる収入の発生があり、将…