一 所得税法二三四条一項は、同法二四二条八号の罪の構成要件の規定として、その意義が明確を欠くものではない。 二 所得税法二三四条一項にいう「納税義務がある者」とは、課税要件がみたされて客観的に納税義務が成立し、いまだ最終的に適正な税額の納付を終了していない者および当該課税年が開始して課税の基礎となる収入の発生があり、将来終局的に納税義務を負担するにいたるべき者をいい、「納税義務があると認められる者」とは、税務職員の判断によつて右の納税義務がある者に該当すると合理的に推認される者をいう。 三 所得税法二三四条一項の質問検査において、その理由および必要性を相手方に告知することは、法律上の要件ではない。
一、所得税法二三四条一項は犯罪の構成要件規定として概念が不明確であるか 二、所得税法二三四条一項にいう「納税義務がある者」「納税義務があると認められる者」の意義 三、所得税法二三四条一項の質問検査における理由および必要性の告知の要否
憲法31条,所得税法234条1項,所得税法242条8号
判旨
所得税法上の質問検査権は、適正な課税の実現を目的として、客観的な必要性があり社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられる。また、「納税義務がある者」には、将来終局的に納税義務を負担するに至るべき者も含まれる。
問題の所在(論点)
所得税法(旧法234条1項)に基づく質問検査権の行使が適法となる要件、および「納税義務がある者」の範囲が問題となる。
規範
質問検査の範囲、程度、時期、場所等の実施の細目については、客観的な調査の必要性が認められ、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられる。また、実施の日時場所の事前通知や、調査の理由・必要性の具体的告知は、法律上一律の要件ではない。
重要事実
被告人が、所得税法に基づく税務職員の質問検査を拒否したとして、同法違反で起訴された事案。被告人側は、確定申告期間前であり納税義務が未確定であること、事前通知や理由の告知がなかったこと、他に調査手段がある場合は許されないこと等を理由に、本件質問検査の違法性を主張した。
あてはめ
所得税の賦課徴収過程においては、更正・決定のみならず予定納税や還付等の様々な処分が必要であり、職権調査は当然に許容される。本件では、適正公平な課税実現という目的のもと、客観的な必要性に基づき判断されている。相手方は質問検査を受忍すべき一般的義務を負っており、物理的な強制を伴わない限り、相手方の利益を過度に侵害するものではない。また、暦年終了前であっても収入が発生していれば、将来的に納税義務を負担すべき者として調査対象に含まれると解するのが相当である。
結論
本件質問検査は適法であり、これを拒否した被告人を処罰する規定は憲法31条、35条等に違反しない。したがって、被告人を処罰した原判決は妥当である。
実務上の射程
行政調査(間接強制を伴う任意調査)の適法性判断におけるリーディングケースである。比例原則的な「必要性」と「相当性」の枠組みを示すとともに、事前通知や理由告知が手続上の必須要件ではないことを明示した点に意義がある。警察比例の原則との比較で、行政目的達成のための裁量を広く認める文脈で活用すべきである。
事件番号: 昭和49(あ)1032 / 裁判年月日: 昭和51年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所得税法に基づく収税官吏の質問検査権は、その性質や目的、手続に照らし、憲法31条、35条、38条に違反せず、社会通念上相当な限度内で行われる限り適法である。 第1 事案の概要:収税官吏Aは、旧所得税法63条に基づき、被告人に対して質問検査を実施した。被告人がこれに協力しなかったため、同法70条10…