所得税逋脱の意思による場合であつても、単に確定申告書を提出しなかつただけでは、所得税法第六九条第一項の罪(所得税逋脱罪)は成立しない。
所得税逋脱の意思による確定申告書の不提出と所得税逋脱罪の成否。
所得税法(昭和29年法律52号による改正前のもの)69条1号,所得税法(昭和29年法律52号による改正前のもの)69条4
判旨
所得税法上の「詐偽その他不正の行為」による脱税罪が成立するには、単なる確定申告書の不提出という消極的行為だけでは足りず、不正の手段が積極的に行われることを要する。
問題の所在(論点)
所得税法(当時69条1項)にいう「詐偽その他不正の行為」として、単なる確定申告書の不提出(無申告)がこれに含まれるか。申告納税制度下における脱税罪の処罰範囲が問題となる。
規範
「詐偽その他不正の行為」により所得税を免れた行為が処罰されるのは、詐偽その他不正の手段が積極的に行われた場合に限られる。たとえ所得税逋脱の意思があっても、単に確定申告書を提出しなかったという消極的な行為だけでは、右「詐偽その他不正の行為」には当たらない。
重要事実
被告人Bは、被告人Aの業務に関し、昭和26年度および27年度のAの所得に対する所得税を逋脱しようと企て、故意に所得を秘匿して確定申告書を提出せず、もって両年度の所得税を不正に免れた。原判決は、この単なる無申告の事実をもって所得税法違反(脱税罪)の成立を認めたため、被告人らが上告した。
あてはめ
本件において、被告人らは所得を秘匿して確定申告書を提出しなかったとされるが、第一審および原審が認定した事実は「単に確定申告書を提出しないで所得税を免れた」という点に尽きる。これは消極的な行為にとどまり、処罰根拠となる積極的な不正手段の行使とは認められない。したがって、積極的作為を欠く本件行為に同条項を適用することは法令の適用を誤ったものといえる。
結論
単なる無申告は「詐偽その他不正の行為」に該当しない。したがって、原判決中、当該無申告を脱税罪として認定した部分は破棄を免れず、さらに事実を調査させるため差戻しを要する。
実務上の射程
行政罰としての無申告加算税と、刑事罰としての脱税罪の境界を画する重要判例である。答案上では、脱税罪の成立要件として「積極的な隠蔽・装飾行為」の必要性を論じる際の規範として引用する。なお、現行の単純無申告罪(所得税法238条の2等)との書き分けに注意が必要である。
事件番号: 昭和47(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和49年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所得税の過少申告による脱税犯において、真実の所得を秘匿して内容虚偽の確定申告書を提出する行為は、それ自体が「詐偽その他不正の行為」に該当する。 第1 事案の概要:被告人は、所得税の確定申告に際し、真実の所得金額を秘匿した。その上で、本来の所得よりも過少な金額を記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税…