現行所得税法第六九條第一項は詐僞その他不正の行爲によつて所得税を免れた行爲を處罰しているがそれは詐僞その他不正の手段が積極的に行われた場合に限るのである。それ故もし詐欺その他の不正行爲を用いて所得を秘し無申告で所得税を免れた者はもとより右規定の適用を受けて處罰を免れないのであるが、詐僞その他の不正行爲を伴わないいわゆる單純不申告の場合にはこれを處罰することはできないのである。
單なる所得の不申告と所得税法第六九條第一項の「詐僞その他の不正行爲」
所得税法69條1項
判旨
所得税法における「詐偽その他不正の行為」とは、脱税のために行われる積極的な術策を指し、単に申告書を提出しない「単純不申告」はこれに含まれない。
問題の所在(論点)
旧所得税法69条1項(現行法上の脱税罰則に相当)にいう「詐偽その他不正の行為」に、納税義務者が故意に申告をしない「単純不申告」が含まれるか。
規範
「詐偽その他不正の行為」とは、納税を免れるために詐偽その他の不正な手段が積極的に行われた場合を指す。納税義務の不履行という消極的な不作為である「単純不申告」は、特段の不正行為を伴わない限り、同条の処罰対象となる「不正の行為」の概念には包含されない。
重要事実
被告人は、所得税の納税義務があるにもかかわらず、所定の申告期限までに申告書を提出せず、所得税を免れたとして所得税法違反で起訴された。検察側は、申告納税制度下では不申告自体が「不正の行為」にあたると主張したが、原審は積極的な隠蔽工作等がない単純不申告であるとして無罪を言い渡したため、検察側が上告した。
あてはめ
所得税法が「詐偽その他不正の行為」による逋脱を処罰するのは、積極的に税を免れる術策を講じた場合を想定している。現行法が申告納税制度を採用し、申告を税額決定の基礎としているとしても、不申告という消極的な行為を「不正の行為」に含めることは、文理および従来の法解釈の枠組みを越えるものである。本件被告人の行為は、納税義務の認識の有無にかかわらず、単に申告書を提出しなかったに過ぎないため、積極的な不正手段を伴わない単純不申告といえる。
結論
単純不申告は「不正の行為」に該当しない。したがって、被告人の所為は罪とならず、上告を棄却する。
実務上の射程
租税法における脱税犯(逋脱犯)の構成要件である「不正の行為」の解釈を示す重要判例である。申告納税制度下であっても、重い刑事罰を科すためには「積極的な隠蔽・装飾」が必要であるという限定解釈の立場を明確にしている。答案上は、不申告犯と逋脱犯の区別を論じる際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和56(あ)183 / 裁判年月日: 昭和56年9月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】税法違反の罪における「不正の行為」について、虚偽過少申告行為はそれ自体が「不正の行為」に該当し、納税義務を免れるための積極的な工作を必要としない。 第1 事案の概要:被告人は、所得税法違反等の罪に問われた事案において、虚偽の内容に基づき本来の所得よりも過少な金額を申告した。弁護人は、先行判例を引用…