判旨
所得税法上の「詐偽その他不正の行為」による脱税罪の成立には、納税者のいかなる所為が当該行為に該当するかを具体的に特定する必要があるが、その摘示が不明確な場合であっても、直ちに原判決を破棄すべき正義に反する事由に当たるとは限らない。
問題の所在(論点)
所得税法における脱税罪(詐偽その他不正の行為による所得税免除)の成立を認める際、判決において具体的ないかなる所為が「不正の行為」に該当するかを明示しなかった場合に、審理不尽または事実誤認として判決を破棄すべきか。
規範
旧所得税法69条1項にいう「詐偽その他不正の行為」とは、租税の賦課徴収を免れる目的をもって、税の徴収を不能または著しく困難にするような欺罔・隠蔽等の不法な働きかけを指す。刑事裁判においてこれを認定する際は、被告人のいかなる具体的な所為がこれに該当するかを明確に特定しなければならない。
重要事実
被告人が譲渡所得に関する所得税を不正に免れたとして起訴された事案において、第一審判決は被告人が所得税を免れた事実を認定した。しかし、その判決文上、被告人のどのような行為が「詐偽その他不正の行為」に該当するのかという具体的態様が必ずしも明確にされていなかった。原審(控訴審)は、この第一審の認定をそのまま肯認した。
あてはめ
第一審および原審において、被告人の行為の具体性が欠けている点は、審理不尽ひいては事実誤認の疑いがある。しかし、記録上の諸事実を照らし合わせれば、脱税の事実自体は否定しがたく、具体的態様の摘示が不十分であるという形式的な不備のみをもって、刑訴法411条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
本件上告を棄却する。判決における具体的行為の特定が不十分な点は瑕疵となり得るが、直ちに破棄事由には当たらない。
実務上の射程
脱税罪の構成要件である「不正の行為」の認定において、具体的態様の特定が不可欠であることを示唆しつつ、実務上は記録全体から不正の事実が認められれば、判決文の表現の不備のみでは破棄されないという、事後的救済における謙抑的な判断枠組みを示している。
事件番号: 昭和24(れ)893 / 裁判年月日: 昭和24年7月9日 / 結論: 棄却
現行所得税法第六九條第一項は詐僞その他不正の行爲によつて所得税を免れた行爲を處罰しているがそれは詐僞その他不正の手段が積極的に行われた場合に限るのである。それ故もし詐欺その他の不正行爲を用いて所得を秘し無申告で所得税を免れた者はもとより右規定の適用を受けて處罰を免れないのであるが、詐僞その他の不正行爲を伴わないいわゆる…