一 所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出する行為は、所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六九条一項にいう「詐偽その他不正の行為」にあたる。 二 第一審判決が、被告人を懲役六月および罰金二百万円に処し、罰金を完納しないときは一万円を一日に換算した期間労役場に留置し、裁判確定の日から二年間懲役刑の執行を猶予するとの言渡しをしたのに対し、第二審判決が、これを変更して、被告人を罰金四百万円に処し、罰金を完納しないときは二万円を一日に換算した期間労役場に留置するとの言渡しをすることは、刑訴法四〇二条に違反しない。
一、所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出する行為と所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六九条一項にいう「詐偽その他不正の行為」 二、刑訴法四〇二条に違反しないとされた事例
所得税法(昭和40年法律33号による改正前のもの)69条1項,所得税法238条1項,刑訴法402条
判旨
所得税逋脱罪の構成要件である「詐偽その他不正の行為」とは、税の徴収を困難にする工作を指すが、内容虚偽の確定申告書を提出する過少申告行為自体もこれに該当する。
問題の所在(論点)
所得税法(昭和40年法律第33号による改正前の69条1項)にいう「詐偽その他不正の行為」の意義。特に、特段の偽装工作を伴わずに行われる「過少申告行為」自体が、同要件に該当するか。
規範
所得税法等における「詐偽その他不正の行為」とは、逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行うことをいう。単なる所得不申告(不作為)はこれに含まれないが、真実の所得を隠蔽し、課税回避を目的として虚偽の申告書を提出する行為(過少申告行為)は、単なる不作為にとどまらず、右の「不正の行為」にあたる。
重要事実
被告人は、真実の所得を隠蔽して課税を免れる意図のもと、実際の所得金額をことさらに過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出した。被告側は、このような過少申告行為が、先行する大法廷判決の示した「工作」を伴わないものであるとして、刑罰の対象となる「詐偽その他不正の行為」に当たらないと主張して争った。
あてはめ
所得税の過少申告行為は、真実の所得を隠蔽し、それが課税対象となることを回避するために、積極的な虚偽表示を含む確定申告書を提出するものである。これは、単に申告義務を履行しない「単なる所得不申告」とは性質が異なり、税の適正な賦課徴収を困難にする偽計的な性格を有している。したがって、先行する大法廷判決が否定した「単なる不作為」には当たらず、同判決が定義する「不正の工作」の一態様として評価されるべきである。
結論
虚偽の所得税確定申告書を提出する過少申告行為自体が「詐偽その他不正の行為」にあたるとした原判決の判断は正当である。
実務上の射程
逋脱罪の実行行為について、「積極的な工作」を要するとする原則(昭和42年大法廷判決)を維持しつつ、過少申告という作為があればそれ自体で「工作」を認めることができるという実務上の限界線を引いた。司法試験では、不申告犯と逋脱犯の区別、および「不正の行為」の解釈において、過少申告があれば直ちに本罪の成立を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和56(あ)183 / 裁判年月日: 昭和56年9月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】税法違反の罪における「不正の行為」について、虚偽過少申告行為はそれ自体が「不正の行為」に該当し、納税義務を免れるための積極的な工作を必要としない。 第1 事案の概要:被告人は、所得税法違反等の罪に問われた事案において、虚偽の内容に基づき本来の所得よりも過少な金額を申告した。弁護人は、先行判例を引用…