所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)七〇条一〇号の定める当該帳簿書類その他の物件の検査を妨げる罪は、同法六三条一号ないし三号所定の者の行為のみを処罰するいわゆる身分犯を定めた規定ではない。
所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)七〇条一〇号の定める検査を妨げる罪はいわゆる身分犯か
所得税法(昭和40年法律第33号による改正前のもの)63条,所得税法(昭和40年法律第33号による改正前のもの)70条10号
判旨
旧所得税法70条10号の検査妨害罪は、受忍義務者に義務履行を強制するだけでなく、適正な課税権の行使を確保するために広く一般人を対象とするものであり、身分を有しない者も同罪の主体となり得る。
問題の所在(論点)
旧所得税法70条10号に規定される、収税官吏の検査を「妨げる」罪の主体は、同法63条各号に定める受忍義務を負う者に限定されるか(身分犯か)。
規範
旧所得税法70条10号(現行所得税法242条8号等に相当)にいう「検査を妨げる」行為は、その性質上、何人でもなし得る行為である。本規定は、収税官吏による適法な検査の実効性を確保し、適正公平な課税権の行使を保護するために、公務執行妨害罪の補充的規定としての性格も有する。したがって、法文上も主体に限定がない以上、同法63条各号所定の受忍義務者に限られるものではなく、いわゆる身分犯ではないと解するのが相当である。
重要事実
被告人は商工会事務局員であり、所得税の青色申告調査のために帳簿等の検査を行おうとした収税官吏に対し、その面前に立ち塞がって至近距離から「帰れ」などと怒鳴りつけ、検査を妨害したとして、旧所得税法70条10号違反で起訴された。原審は、同罪を身分犯と解し、納税義務者(受忍義務者)ではない被告人は同罪の主体となり得ないとして無罪を言い渡したため、検察官が上告した。
あてはめ
被告人の行為は、収税官吏の面前に立ち塞がり怒鳴りつけるという、検査を「妨げる」類型に該当する。この行為は受忍義務者であるか否かという身分に関わらず実行可能なものである。旧所得税法70条10号は、検査を拒絶・忌避する行為と並んで妨害行為を規定しているが、これらを統一的に解釈して主体を限定すべき必然性はない。むしろ、税制の目的達成のために広く一般人による妨害も禁じる必要があるため、受忍義務者ではない被告人も同罪の主体となり得る。
結論
被告人は旧所得税法70条10号の罪の主体となり得る。したがって、身分がないことを理由に無罪とした原判決には法令の解釈適用の誤りがある。
実務上の射程
行政調査に対する妨害行為について、罰則規定が身分犯か否かを判断する際、規定の文言(主体の限定の有無)と、禁止される行為の性質(誰でも実行可能か)、及び規定の目的(行政実効性の確保)を基準とする判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和44(あ)734 / 裁判年月日: 昭和47年11月22日 / 結論: 棄却
一 当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が、憲法三五条一項による保障の枠外にあることにはならない。 二 所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六三条、七〇条一〇号に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、…