法人税法一五六条は、税務調査中に犯則事件が探知された場合に、これが端緒となつて収税官吏による犯則事件としての調査に移行することをも禁ずる趣旨のものではない。
法人税法一五六条と犯則事件の調査
法人税法156条
判旨
行政調査の過程で犯則事件が探知された場合であっても、直ちに犯則調査への移行が禁じられるわけではなく、質問検査権を実質的に強制捜査の手段として行使したと認められない限り、憲法38条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
行政調査としての質問検査権の行使が、後に犯則調査の端緒となった場合、その調査権の行使は憲法38条1項の保障する自己負罪拒否特権に反し違憲とならないか。また、法人税法が調査の過程での犯則調査への移行を禁止しているか。
規範
行政調査における質問検査権は、その性質上、犯則調査や犯罪捜査のための手段として行使されることは許されない。しかし、質問検査の過程で犯則事件が探知された場合に、それが端緒となって収税官吏による犯則調査へ移行すること自体が禁止されているわけではない。
重要事実
法人税法に基づく税務調査が行われていた際、その調査の過程で犯則事件の疑いが探知された。これを端緒として収税官吏による犯則事件としての調査に移行し、その結果得られた資料等が証拠として用いられた。被告人側は、このような運用は実質的に犯罪捜査のために質問検査権を行使したものであり、黙秘権を保障する憲法38条1項に違反すると主張した。
あてはめ
法人税法156条(当時の規定)は、税務調査中に犯則事件が探知された場合に犯則調査へ移行することを禁ずる趣旨ではないと解される。本件において、当初の質問検査権の行使はあくまで税務調査を目的として行われており、これを犯則調査や犯罪捜査の具体的な手段として濫用的に行使したと認めるに足りる客観的事実はない。したがって、適法な行政調査の結果が犯則調査の端緒になったとしても、供述の強要には当たらない。
結論
行政調査が犯則調査の端緒となったとしても、最初から捜査目的で調査権が行使された等の事情がない限り、憲法38条1項には違反せず適法である。
実務上の射程
行政調査と犯罪捜査の区別に関する重要判例(荒川税務署事件等)の射程を補完するものである。答案上は、行政調査の権限行使が「実質的に犯罪捜査を目的としたもの」か否かを検討する際の限界事例として引用できる。調査の端緒が行政目的にある限り、その後に犯則調査へ移行すること自体は許容されるという判断枠組みを示す際に有用である。
事件番号: 昭和57(あ)666 / 裁判年月日: 昭和58年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】収税官吏が犯則嫌疑者に対し、質問にあたって供述拒否権をあらかじめ告知しなかったとしても、その質問手続が憲法38条に違反するものではなく、その供述が直ちに任意性を失うこともない。 第1 事案の概要:収税官吏(大蔵事務官)が犯則嫌疑者であった被告人Aに対し、質問調査を実施した。その際、収税官吏は被告人…