判旨
刑事訴訟における証人申請の採否は裁判所の自由裁量に属するが、その却下が主観的専制や独断に陥り、健全な合理性や経験則に反する場合には憲法37条2項に違反する。本件では、申請された証拠が間接証拠に留まり、直接証拠等により既に十分な心証形成が可能であったことから、却下は違憲ではない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人側の証拠請求をすべて却下することが、憲法37条2項が保障する「公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利」を侵害し、裁判所の裁量を逸脱した違憲なものといえるか。
規範
刑事訴訟において被告人側から申請された証人を悉く尋問すべき義務はなく、その採否は原則として裁判所の自由裁量に任されている。ただし、尋問の必要なしとして申請を却下することが、裁判所の主観的専制ないし独断に陥り、健全な合理性ないし経験則に反するに至った場合には、憲法37条2項(証人審問権)に違反し不法となる。
重要事実
公職選挙法違反事件において、被告人らは現金授受の事実は概ね認めつつ、その趣旨が報酬ではなく「政治団体の会員募集費用」や「実費の前渡し」等であると主張して争った。検察側は供与者・受領者の尋問や調書等の立証を終えた。これに対し弁護人は、当該団体が政治団体であることや労務賃の支払状況等を立証するため15名の証人尋問、および警察官による自白強要を立証するための証人尋問等を請求したが、裁判所はこれらをすべて却下して有罪判決を下した。
あてはめ
弁護人が請求した証拠(政治団体の性質や労務賃の状況等)は、現金授受の趣旨を否定するための間接証拠に過ぎず、仮にそれらの事実が認められたとしても、直ちに公訴事実(報酬趣旨)を覆すに足りるものとはいえない。また、自白強要の主張についても、検察官に対する供述への影響が当然には認められず、分離公判での証人尋問において反対尋問の機会も与えられていた。以上より、裁判所がこれらの証拠を「取調の必要なし」と判断したことには相当の余地があり、主観的専制や合理性に反する状況は認められない。
結論
本件の証拠調申請の却下は、合理的な裁量の範囲内であり、憲法37条2項に違反しない。
事件番号: 昭和29(し)64 / 裁判年月日: 昭和29年12月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は、被告人側が申請した証人をすべて喚問することを義務付けるものではなく、証拠調の必要性の判断は裁判所の合理的な裁量に委ねられる。当該証拠が唯一の証拠でない場合など、不必要と認められる証人の尋問を却下することは同条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、第一審公判において、…
実務上の射程
刑事訴訟法298条に基づく証拠決定の裁量権の限界を示す判例。実務上、弁護側の証拠請求を棄却する際には「必要性」の有無が厳しく吟味されるが、本判決は、直接証拠との関係で間接証拠としての価値が低い場合や、既に十分な立証がなされている場合には却下が許容されることを示している。
事件番号: 昭和34(し)39 / 裁判年月日: 昭和34年8月27日 / 結論: 棄却
刑訴第三九三条第二項が、控訴審における第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状に関する事実取調の必要の有無を裁判所の裁量に委ねたことは、憲法に違反しない。
事件番号: 昭和38(し)33 / 裁判年月日: 昭和39年3月12日 / 結論: 棄却
刑訴法第二二条は、憲法第三七条第一項に違反しない。
事件番号: 昭和47(し)78 / 裁判年月日: 昭和47年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官が不公平な裁判をするおそれがあるとは認められない場合、刑事訴訟法24条1項に基づく忌避の申立ては却下されるべきである。本決定は、具体的な記録に照らし、憲法37条1項等の違反がないことを確認したものである。 第1 事案の概要:申立人は、背任被告事件の担当裁判長である金子裁判長に対し、不公平な裁…
事件番号: 昭和46(し)57 / 裁判年月日: 昭和46年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の事件の審理に関与した裁判官が、別の共犯者の事件を担当することは、憲法37条1項が保障する不公平な裁判をするおそれがあるものとはいえず、違憲ではない。 第1 事案の概要:被告人は、自身の事件の審理を担当する裁判官が、以前に当該事件と共犯関係にある他の被告人の事件の審理に関与していたことを理由…