刑法第二三四条の「威力」とは、犯人の威勢、人数および四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解する相当とし、かつ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであつて、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきである(昭和二五年(れ)第一八六四号同二八年一月三〇日第二小法廷判決、刑集七巻一号一二八頁参照)。
刑法第二三四条にいう「威力」の意義。
刑法234条
判旨
刑法234条の「威力」とは、犯人の威勢や人数、周囲の情勢からみて、被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力をいい、客観的にその状態にあれば足り、現実に自由意思が制圧されたことまでは不要である。また、争議行為が威力業務妨害罪となるかは、単なる平和的説得の範囲内か否かだけでなく、諸般の事情を総合考慮して正当な範囲を逸脱しているかにより判断される。
問題の所在(論点)
1. 威力業務妨害罪(刑法234条)における「威力」の意義およびその判断基準。2. 労働争議としての正当性を逸脱し、同罪が成立するかを判断する際の基準。
規範
1. 刑法234条の「威力」とは、犯人の威勢、人数および四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足りる犯人側の勢力をいう。これは客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足りるものであれば足り、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要しない。2. 労働争議に伴う行為の正当性は、単に平和的説得の域を出ていたかという基準のみならず、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱していたかという広い基準による評価を行うべきである。
重要事実
証券取引所の労働組合員らが、争議行為の一環として、取引所の建物内への入場を阻止する等の行為に及んだ。被告人らは、当時の業務が平常時に比べ限定的であったことや、閉場時刻を過ぎていたこと等を理由に、保護すべき「業務」が存在しなかった、あるいは「威力」に該当しないと主張して上告した。
あてはめ
1. 本件における取引所の業務は、平常時に比して内容的に及ばない面はあるものの、証券取引の公正監視、価格確定・公示、受渡清算といった本質的機能を一応遂行し得たものであり、保護に値する業務の実体を有していた。2. 閉場時刻を過ぎた後の入場阻止についても、延刻申請が許可される蓋然性があった以上、業務が存在しなかったとはいえない。3. 被告人らの行為は、その人数や態様等の全般にわたる事情から評価して、客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力(威力)を用いたものと認められ、争議行為としての正当な範囲を逸脱している。
結論
被告人の所為は刑法上の威力業務妨害罪を構成し、争議行為としての正当性を欠く。本件上告を棄却する。
実務上の射程
「威力」の定義(自由意思制圧に足りる客観的勢力)を示すリーディングケースとして重要である。また、労働法上の正当行為(刑法35条)の成否につき、平和的説得という手段の態様だけでなく、諸般の事情を総合考慮して正当性を判断する枠組みを提示しており、刑事実務における争議行為の限界画定に用いられる。
事件番号: 昭和33(あ)44 / 裁判年月日: 昭和33年12月25日 / 結論: 破棄差戻
電力会社変電所におけるA労働組合による停電ストライキの争議行為に対抗するため、会社側が派遣した職員二名が配電盤前に立ち配電盤のオイルスイツチのハンドルを握つていたのに対し、同労働組合支部執行委員たる被告人において、隙を見てそのハンドルの先を掴んで引きしやくつて同スイツチを切り、会社側が同スイツチを入れるや再び右配電盤前…
事件番号: 昭和30(あ)1817 / 裁判年月日: 昭和35年5月26日 / 結論: 棄却
炭鉱において鉱員と職員とが分かれてそれぞれ労働組合と職員組合とに属している場合に、労働組合のみがストライキ実行中、争議行為に加わつていない職員が就業のため出勤するに際し、労働組合員がスクラムを組み体当りを以つて職員を押し返したときは、威力業務妨害罪を構成する。