炭鉱において鉱員と職員とが分かれてそれぞれ労働組合と職員組合とに属している場合に、労働組合のみがストライキ実行中、争議行為に加わつていない職員が就業のため出勤するに際し、労働組合員がスクラムを組み体当りを以つて職員を押し返したときは、威力業務妨害罪を構成する。
争議行為に加わつていない職員の就業を阻止するための威力の行使が威力業務妨害罪を構成するものとされた事例。
刑法234条,労働組合法1条2項
判旨
労働組合員による争議行為であっても、争議に参加せず出勤しようとする職員等に対して威力を行使する行為は、威力業務妨害罪を構成する。
問題の所在(論点)
労働組合員による争議行為の一環として、非参加者の出勤に対して威力を行使する行為が、刑法234条の威力業務妨害罪を構成するか、および憲法28条によりその正当性が認められるか。
規範
労働組合法や憲法28条に基づく正当な争議行為の範囲を逸脱し、当時争議行為に加わっていなかった非組合員や職員等の業務に従事する自由を実力で阻止するような「威力の行使」は、刑法234条の威力業務妨害罪を構成する。
重要事実
被告人らは、労働組合による争議行為(ストライキ等)の際、当時争議行為に参加していなかった職員等の出勤を阻止するため、これに対して威力を行使した。被告人側は、労働組合規約(炭労規約55条)等の解釈に基づき、当該行為が正当な争議行為の範囲内であり違法性が阻却される旨を主張して上告した。
事件番号: 昭和31(あ)306 / 裁判年月日: 昭和33年6月20日 / 結論: 棄却
被告人らが駐留軍横浜陸上輸送部隊と争議中、同部隊バス通用門から争議に参加しなかつた同部隊勤務の日本人運転手A外五人が駐留軍軍人、軍属らを輸送するためa駅に赴くべく各一台のバスを運転し一列縦隊で順次出門しようとするや、右通用門の前にピケラインを張つていた組合員約三〇名位と共謀の上、その出門を阻止しようとして右門前において…
あてはめ
原審が認定した事実関係によれば、被告人が行使した威力は、当時争議行為に加わっていなかった職員等の出勤に対して直接向けられたものである。このような実力行使による業務の妨害は、最高裁判所の累次の判例(昭和27年、33年の大法廷判決等)の趣旨に照らせば、正当な争議行為の限界を超えた威力業務妨害罪にあたると解される。組合規約の解釈等に関する主張は、本件の犯罪成立を左右するものではない。
結論
被告人らの行為は威力業務妨害罪を構成し、有罪とした原判決に憲法違反や法令違反の誤りはない。したがって、本件上告を棄却する。
実務上の射程
労働刑法における正当行為(刑法35条)の限界を示す。ストライキ等の争議行為そのものは正当であっても、非参加者(スキャブ)に対する物理的な出勤阻止や威圧的妨害は、業務妨害罪の構成要件に該当し、違法性は阻却されないことを確認した判例である。
事件番号: 昭和47(あ)1436 / 裁判年月日: 昭和51年5月6日 / 結論: 破棄自判
争議中の労働組合員が、争議のため職場を離れた労働組合員に代つて会社側管理職員が予定の放送業務を行つているスタジオ出入口扉前に集まり、一斉に労働歌を高唱し、拍手し、シユプレヒコールを行う等してテレビ生放送に騒音を混入せしめた威力業務妨害行為(判文参照)は、動機・目的その他諸般の事情を考慮に入れても、法秩序全体の見地からみ…
事件番号: 昭和27(あ)4798 / 裁判年月日: 昭和33年5月28日 / 結論: その他
労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するためにとられた労働者側の威力行使の手段(いわゆるピケツト、ライン)が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、威力業務妨害罪が成立し、したがつて、これを処罰することは、憲法第二八条に違反しない