争議中の労働組合員が、争議のため職場を離れた労働組合員に代つて会社側管理職員が予定の放送業務を行つているスタジオ出入口扉前に集まり、一斉に労働歌を高唱し、拍手し、シユプレヒコールを行う等してテレビ生放送に騒音を混入せしめた威力業務妨害行為(判文参照)は、動機・目的その他諸般の事情を考慮に入れても、法秩序全体の見地からみて、刑法上、違法性及び責任を欠くものではない。
争議中の労働組合員が会社側管理職員の行つているテレビ生放送に騒音を混入せしめた威力業務妨害行為が刑法上の違法性及び責任に欠けるところはないとされた事例
刑法35条,刑法234条,労働組合法1条2項
判旨
労働組合員による争議行為が威力業務妨害罪の構成要件に該当する場合、その行為が法秩序全体の見地から許容される正当な範囲を逸脱しているときは、違法性及び責任を欠くものとはいえず、同罪が成立する。
問題の所在(論点)
争議行為の一環として行われた放送業務への妨害行為が、法秩序全体の見地から許容される正当な範囲内にあるといえるか(刑法35条・労組法1条2項の正当性の限界)。
規範
労働組合法1条2項により、正当な争議行為については刑法35条の正当業務行為として違法性が阻却される。その正当性は、行為の動機・目的のみならず、具体的状況、態様等に照らし、法秩序全体の見地から許容・宥恕されるものであるか否かによって判断される。特に、手段・方法が著しく常軌を逸して相当性を欠く場合には、正当な範囲を逸脱し、違法性は阻却されない。
重要事実
テレビ放送会社の労働組合員である被告人らは、賃上げ要求等の目的でストライキを実施。会社側の管理職員が代替要員として生放送(本件番組)を開始したところ、被告人ら約40名は、放送スタジオの扉前に集まり、電気メガホン等を用いて労働歌を高唱し、シユプレヒコールを繰り返した。さらに、騒音混入を防ぐためのカーペットを外に引き抜くなどして、約6分20秒間にわたり放送に騒音を混入させ、出演者やアナウンサーに心理的影響を与えて放送業務を妨害した。
あてはめ
被告人らの目的は労働条件の改善であり正当ではある。しかし、放送業務の特性を熟知している者でありながら、多数で押し掛け、ことさら生放送に騒音を混入させるという態様は、出演者に著しい心理的動揺を与えるものであり、手段・方法において著しく常軌を逸している。また、かかる強硬な行動に出るべきやむを得ない事情も認められない。したがって、動機・目的等の諸般の事情を考慮しても、本件行為は法秩序全体の見地から許容される限度を超えており、正当性を欠くといえる。よって、実質的な違法性及び責任は否定されない。
結論
被告人らの行為は正当な争議行為の範囲を逸脱しており、威力業務妨害罪(刑法234条、233条)が成立する。
実務上の射程
全農林警職法事件判決(最大判昭48.4.25)の流れを汲み、労働者の争議行為であっても、手段の相当性を厳格に判断し、刑罰法規への抵触を広く認める立場を示したものである。答案上は、目的の正当性だけでなく「手段の相当性(常軌を逸していないか)」という観点から、法秩序全体の見地による違法性阻却の可否を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和30(あ)1817 / 裁判年月日: 昭和35年5月26日 / 結論: 棄却
炭鉱において鉱員と職員とが分かれてそれぞれ労働組合と職員組合とに属している場合に、労働組合のみがストライキ実行中、争議行為に加わつていない職員が就業のため出勤するに際し、労働組合員がスクラムを組み体当りを以つて職員を押し返したときは、威力業務妨害罪を構成する。