電力会社変電所におけるA労働組合による停電ストライキの争議行為に対抗するため、会社側が派遣した職員二名が配電盤前に立ち配電盤のオイルスイツチのハンドルを握つていたのに対し、同労働組合支部執行委員たる被告人において、隙を見てそのハンドルの先を掴んで引きしやくつて同スイツチを切り、会社側が同スイツチを入れるや再び右配電盤前に行き、これを守るため立つている右二名の足の下から手を延ばして同配電盤の前方下方にあつたリレーのプランジヤーを押し上げてスイツチを切り、これに応じて被告人から指揮を受けていた同労働組合員五名が右配電盤に行き会社側が同スイツチを入れるのを防ぐため約五分間スクラムを組む等の所為に出たときは、被告人の所為は労働争議における労働者側の争議手段として正当な範囲を逸脱したものである。
労働争議における労働社側の争議手段として正当な範囲を逸脱するものと認めた事例。
刑法234条,刑法35条,労働組合法1条2項
判旨
労働争議の本質は労務供給の拒否にあるため、使用者による業務遂行を威力をもって阻止する行為は、原則として正当な範囲を逸脱し、業務妨害罪を構成する。
問題の所在(論点)
労働組合員による停電ストライキに伴うスイッチ操作やスクラム等の威力行使が、労働組合法1条2項の正当な争議行為として刑法上の違法性を阻却するか、あるいは威力業務妨害罪(刑法234条)を構成するか。
規範
同盟罷業の本質は、労働者が労働契約上の労務供給義務を不履行とし、労働力を使用者に利用させないことにある。したがって、使用者側が対抗手段として自らなそうとする業務の遂行に対し、暴行・脅迫を用いることはもちろん、不法に、使用者側の自由意思を抑圧し、またはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されない。労働者側による威力行使が諸般の事情から見て正当な範囲を逸脱したと認められる場合には、刑法上の業務妨害罪が成立する。
重要事実
事件番号: 昭和31(あ)3844 / 裁判年月日: 昭和33年12月25日 / 結論: 破棄差戻
一 本件電源ストにおいて被告人らが排水門、制水門を開放して水力発電所の用水を放流した積極的な所為が、電源職場における被告人ら従業員の労務提供義務不履行行為にあたる理由を説示するところなく無罪とした原判決は、理由不備ないし重大な事実誤認の疑がある。 二 原判決が一面ピケツテイングは平和的説得ないし団結の示威を建前とすると…
電力会社の労働組合員である被告人は、停電ストライキを実施中、送電継続を試みる会社側役職員の制止を振り切り、配電盤のスイッチを強引に切り、さらには同盤前でスクラムを組んで会社側によるスイッチ投入を約5分間妨害した。また、屋外の柱上開閉器を操作して強制的に停電状態を発生・継続させた。
あてはめ
本件被告人の行為は、単なる労務提供の拒否に留まらない。会社側が業務継続のために配置した人員による制止を排して物理的に機器を操作し、さらにスクラムによって会社側の業務回復措置を阻止した点は、使用者の自由意思を抑圧し、財産に対する支配を実力で排除するものといえる。これは労働力を提供しないという争議行為の本質から逸脱しており、威力を用いて使用者側の正当な業務執行を妨害したと評価される。
結論
被告人の行為は正当な争議行為の範囲を逸脱しており、威力業務妨害罪が成立する。
実務上の射程
争議行為の正当性(刑事免責)の限界画定に関するリーディングケース。消極的・不作為的な労務拒否を超え、積極的・作為的に使用者の財産管理権を侵したり、業務執行を物理的に阻止したりする「業務阻止型」の争議行為は、正当性を否定されやすいことを示す。
事件番号: 昭和31(あ)1864 / 裁判年月日: 昭和32年2月21日 / 結論: 棄却
刑法第二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」とは、一定の行為の必然的結果として、人の意思を制圧するような勢力を用いれば足り、必ずしもそれが直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しない。
事件番号: 昭和27(あ)4798 / 裁判年月日: 昭和33年5月28日 / 結論: その他
労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するためにとられた労働者側の威力行使の手段(いわゆるピケツト、ライン)が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、威力業務妨害罪が成立し、したがつて、これを処罰することは、憲法第二八条に違反しない