一 本件電源ストにおいて被告人らが排水門、制水門を開放して水力発電所の用水を放流した積極的な所為が、電源職場における被告人ら従業員の労務提供義務不履行行為にあたる理由を説示するところなく無罪とした原判決は、理由不備ないし重大な事実誤認の疑がある。 二 原判決が一面ピケツテイングは平和的説得ないし団結の示威を建前とすると判示しながら、他面本件電源ストにおいて説得前すでに会社側臨時人夫ら非組合員の現場立入をスクラムによるピケツテイングにより阻止しても違法でないと判示したのは、理由にくいちがいがあるかまたは重大な事実誤認の疑がある。
一 いわゆる電源ストについて原判決に理由不備、事実誤認の疑があるとされた事例。 二 ピケツテイングについて理由のくいちがい、真実誤認の疑があるとされた事例。
刑法35条,刑法234条,刑法123条,刑訴法411条1号,刑訴法411条3号,労働組合法1条2項
判旨
労働争議において、使用者の業務遂行を阻止するための威力行使が諸般の事情に照らして正当な範囲を逸脱したと認められる場合には、刑法上の威力業務妨害罪が成立する。また、労働組合による積極的な施設損壊・操作行為や、非組合員の立ち入りを実力で阻止するピケッティングは、正当な争議行為の範囲を超え得る。
問題の所在(論点)
発電施設における放水路開放等の積極的行為や、スクラムによる非組合員排除を伴うピケッティングが、労組法1条2項による刑事免責の対象となる「正当な争議行為」といえるか。
規範
同盟罷業の本質は、団結して労働力を利用させないこと(労務供給義務の不履行)にある。したがって、使用者側の業務遂行に対し暴行・脅迫をもって妨害する行為はもちろん、不法に使用者の自由意思を抑圧し、またはその財産に対する支配を阻止する行為は許されない。労働者側の威力行使が、諸般の事情から見て正当な範囲を逸脱したと認められる場合には、刑法上の威力業務妨害罪を構成する。
重要事実
発電所の労働組合員らが、減電を目的とした電源ストライキに際し、発電所内の水路排水門や本流制水門を開放して用水を放流するなどの積極的行為に及んだ。また、会社側が代替要員を派遣して発電継続を試みたのに対し、組合側は方針として「説得困難な場合はスクラムを組んでも阻止する」と決定し、実際に非組合員の現場への立ち入りを実力で阻止するピケッティングを行った。原審はこれらを正当な争議行為として無罪としたが、検察側が上告した。
あてはめ
第一に、放水路や制水門を開放して用水を放流する行為は、単なる労務供給の拒絶(不作為)にとどまらない「積極的な行為」である。これらがなぜ労働契約上の義務不履行の範囲内といえるのかについて、原判決の説示は不十分である。第二に、ピケッティングについて、原審は「平和的説得」を前提に容認するが、認定事実に照らせば当初から立入阻止を目的とした威力行使(スクラム)が予定されていた。このような威力行使は、使用者側の自由な意思や業務遂行を不法に阻止するものであり、諸般の事情から見て正当な範囲を逸脱したものといえる。
結論
本件の積極的な放水行為や実力行使を伴うピケッティングは、正当な争議行為の範囲内にあるとはいえず、威力業務妨害罪等の成立を妨げない。原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
争議行為の正当性の限界(特に態様の正当性)を論じる際のリーディングケースである。答案では、(1)労務供給拒絶を超える「積極的な妨害行為」の有無、(2)ピケッティングが「平和的説得・示威」にとどまっているか、それとも「威力による業務遂行の阻止」に至っているかを判断基準として活用する。
事件番号: 昭和27(あ)4798 / 裁判年月日: 昭和33年5月28日 / 結論: その他
労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するためにとられた労働者側の威力行使の手段(いわゆるピケツト、ライン)が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、威力業務妨害罪が成立し、したがつて、これを処罰することは、憲法第二八条に違反しない
事件番号: 昭和30(あ)1817 / 裁判年月日: 昭和35年5月26日 / 結論: 棄却
炭鉱において鉱員と職員とが分かれてそれぞれ労働組合と職員組合とに属している場合に、労働組合のみがストライキ実行中、争議行為に加わつていない職員が就業のため出勤するに際し、労働組合員がスクラムを組み体当りを以つて職員を押し返したときは、威力業務妨害罪を構成する。